李相日監督、黒澤明賞受賞会見で映画『国宝』大ヒットの要因に言及!クロエ・ジャオ監督は伝統的な舞台に興味津々
開催中の第38回東京国際映画祭(TIFF)にて11月3日、黒澤明賞受賞会見が行われ、受賞者の李相日監督とクロエ・ジャオ監督が登壇し、受賞のよろこびを語った。
黒澤明賞は、故・黒澤明監督の業績を長く後世に伝え、新たな才能を世に送り出したしていきたいという願いから、世界の映画界に貢献した映画人、映画界の未来を託していきたい映画人に贈られる賞。受賞を受けて「身に余る光栄」と感激の李監督は「映画監督としてやってきて四半世紀。これまで出会ったスタッフや俳優に育ててもらってここまでやってきたという気がしているので、感謝したいと思います」とよろこびを噛み締める。ジャオ監督の大ファンだと明かした李監督は「『ハムネット』を観させていただきました。今年一番心が震える映画体験でした」と感想を伝え、「偉大な芸術家と並んで表彰を受けることに、喜びというか、恐縮というか。身のすくむ思いです」と感激していた。
「『国宝』を今夜観ることにしているので、楽しみです!」とウキウキしながら話すジャオ監督は黒澤明作品の印象について魅力は3つあるとし、「1つ目は規模。世界の広さと人々の深さや親密さ、その対比がすばらしいということです」と説明。魅力の2つ目は登場人物だとし「一人一人がはっきりしない、曖昧な部分を持っている。でも、それが人間だということ。人間には影の部分があります。そういうものをきちんと描き、そういった人間を観客が好きになるように作られていると思います」と分析。そして3つ目については「日本の文化と西洋の文化の架け橋になっている点」だとし、「彼はシェイクスピアからも影響を受け、映画を作りました。それがまた西洋へ行く。西洋の文学が日本のフィルターを通して世界へ行くということで世界規模での文化交流のようなものを成し遂げた。一連の架け橋になっていると思います」と黒澤作品に感じる魅力を丁寧に伝えた。
李監督は「お恥ずかしい話ですが、大学生ぐらいまで時代的に洋画で育ってきていて、日本映画を観ていませんでした」と苦笑いするも、「今村昌平監督の映画学校に入って、本格的に日本映画に触れるようになりました」と告白。そういった経緯を明かした上で、「黒澤監督、今村監督の作品が僕に日本映画の偉大さを教えてくれました」と感謝。日本映画の面白さに気づき、目覚めたという李監督は、「特に黒澤監督作品はユーモアもあり、展開の構成力、画作りも含めて海外に全く見劣りしない。『総合芸術とはこういうことか』というのを体験させてくれました」と語る。
さらに、上映中の『国宝』に触れつつ「自分の人生を捧げる人間のドラマを作りました。黒澤さんは映画に自分の人生を捧げ、孤独を引き受け、誰も観たことがない景色に向かってひた走った方。そういった偉大な方という印象があります」と『国宝』で描いた人物と、黒澤監督との共通点を語っていた。また『国宝』が大ヒットしている要因を尋ねられると「僕が知りたいです」と笑顔を見せた李監督は「なにかが不安定。日本でなにか紛争が起きているわけではないけれど、(社会)全体を覆う不安定さ、不安感を抱えて生きているなかで、美しいもの。それは見栄えとかではなく、なにが美しいことなのか。美しいことのためにどれだけ血の滲む努力をし、汗を流すのか。そういう心根や関係性。なにかに突き進む人間そのものの美しさみたいなものを欲している。どこか欲していたんだなと感じることはあります」と自身の考えを述べていた。
『国宝』の大ヒットについて「こんなに当たると思ってなくて(笑)。このような事態なので、(次回作の)完全なスタートが切れていない。どんな感情を描くべきか、どんな人間を掴まえるべきなのか。シルエットは見えている状況だけど、具体まではいってないです」と最新作の進捗を言及した李監督。ジャオ監督は「私も同じような感じです。私が物語を選ぶのではなく、物語が自分を選んでくれると思っています」とし、「いまは舞台に興味があります。だから今年の1月にも歌舞伎を観ました」とニッコリ。続けて「いまは伝統的な舞台に非常に興味を持っています」と話したジャオ監督は、舞台に関わってから映画を作ろうかなと思っています」と現在、興味のあるテーマについて語っていた。
第38回東京国際映画祭は11月5日(水)まで開催。
取材・文/タナカシノブ

