向井康二の唯一無二の魅力がここに!タイと日本をつなぐ『(LOVE SONG)』に見る絶妙な表現力
向井のパーソナルな要素が色濃く反映されたカイというキャラクター
つい、目で追ってしまうこと。でも言葉を交わすと、なんだか距離を感じること。自分以外の人と親しくしていると、心が乱されること。本当は好きなのに、なんだか、うまくいかないこと。
しかしソウタもカイも、「好きです!」と明るく告白するタイ人の友だちのようには行動できない。だから秘めた想いを、言葉ではなく目で語る。どうしようもなく心に沸く気持ちを、未完成のラブソングに乗せる。
そんなふうに不器用で素直になれないカイを、繊細な表現で自然に演じた向井。それが真に迫っていると感じるのは、カイに向井が持つパーソナルな要素が色濃く反映されていることも、関係があるだろう。
小学生から始めたカメラは、雑誌でカメラレッスンを受ける連載を持つほどの腕前で、カメラを持つ姿もごく自然。バンド仲間とのタイ語でのコミュニケーション、ボディタッチなどの仕草で、日本とタイの差を絶妙な距離感で表現する。もちろん、得意な料理もバッチリ披露している。極めつけは、鼻歌、ギターでの弾き語り、ライブと、少なくとも3パターンで聴ける、ハスキーで甘い、色気と哀愁を帯びた歌声。その意味で本作は、カイの中に息づく「向井康二」をも楽しむことができる一作といっても過言ではなく、30歳を超えて深みを増しつつある唯一無二の魅力を堪能することができるのだ(ちなみに半裸シーンもアリ!)。
登場人物の人と成りを深めていくのがうまいチャンプ・ウィーラチット・トンジラー監督
「2gether」もそうだが、監督のチャンプ・ウィーラチット・トンジラーは、登場人物の日常、暮らしぶりを丁寧に積み重ねて、人と成りを深めていくのが本当にうまい。目に映るもの、耳に入ってくる音、口にした食べ物の味、肌に触れた感触――その表現の違い、ユニークさを捉えて「この子は好感が持てる」、「その気持ちわかる」という共感を生み出し、物語に引きこんでいく。全てを詳らかにするのではなく、必要な情報を的確なところに置き、想像をかき立てながら心を動かしていく巧みな物語構成が、ラブストーリーによくマッチしている。
その上で、タイBLの「明るさ」に、日本のBLの一番の魅力である「せつなさ」と「哀しさ」を加味して本作を作り上げたトンジラー監督。カイの周囲にいる女の子たちも嫌味がなく、演出も情緒的、ラブシーンも昭和の少女漫画レベルなので、タイ映画初心者にも見やすい。また、向井演じるカイの、「ヒーローかと思ってたら、途中でヒロイン感出してきて萌える」キャラクターは、「2gether」のサラワット(ブライト)に通じるところもあるので、トンジラー監督作品のファンにも楽しんでもらえるはずだ。最後に一言。往年のBLファンは、及川光博演じるジンにもご注目を!
文/ナカムラミナコ
