サーチライトが配給権を獲得した『アン・リー/はじまりの物語』に込められた制作陣の熱意と”いま、女性のリーダーシップについて語ること”の重要性

サーチライトが配給権を獲得した『アン・リー/はじまりの物語』に込められた制作陣の熱意と”いま、女性のリーダーシップについて語ること”の重要性

「監督は常に一貫し、整合性のあるビジョンを持ち続ける人であるべき」(ブラディ・コーベット)

ファストヴォルドとコーベットのコンビは、昨年のヴェネチアで絶賛され、アカデミー賞で3部門受賞した『ブルータリスト』の脚本も共同執筆している。コーベットは、二人の協働関係について持論を展開する。

「私たちの間では、“監督”として主導権を握るのは一度に一人のみと決めています。今作の最終編集権を持つのはモナです。彼女が『アン・リーの映画を作りたい』と言い出したからです。そして、私たちはシェーカー教のデザイン、特に美しい家具に魅せられていました。彼らの建築形式は米国北東部で重要な意味を持ちます。シェーカー教は音楽を取り入れた宗教で、モナはダンスと舞台芸術の背景を持つため、今作はミュージカル映画でなくてはならないと早い段階で気づきました。私が『ブルータリスト』を手がけている間、彼女は『私は次にアン・リーをやりたい』と言い、互いの作品に対し意見交換を重ねてきました。今作で私はセカンド・ユニット演出を担当しましたが、監督は常に一貫し、整合性のあるビジョンを持ち続ける人であるべきだと考えます」

「動きや歌声を通じて信仰や奇跡を表現する瞬間を、自分なりに再構築した」(モナ・ファストヴォルド監督)

本作は18世紀を舞台にしながら、現代的な印象も与える。荘厳な讃美歌を現代的にアレンジした音楽も見事で、ファストヴォルド監督の前作『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』(20)も担当し、『ブルータリスト』でアカデミー賞作曲賞を受賞したダニエル・ブルームバーグが手がけている。ブルームバーグはシェーカー教の賛美歌を1000曲近くも研究し、それらを現代的に再解釈した。

【写真を見る】本作の音楽を手掛けたダニエル・ブルームバーグ(左)と共同脚本を担当したブラディ・コーベット(右)
【写真を見る】本作の音楽を手掛けたダニエル・ブルームバーグ(左)と共同脚本を担当したブラディ・コーベット(右)Credits Jacopo Salvi, La Biennale di Venezia - Foto ASAC

また、ダンスシーンでは、コーベット監督の『ポップスター』(18)にも参加しているセリア・ロールソン・ホールによる振付が見られる。ファストヴォルド監督が、「この映画は伝統的なミュージカルでも、伝統的な伝記映画でもありません。大量の音楽と大量のダンスが登場する映画であり、あまり知られていない歴史上の人物を題材としています。だから、私は多くのことを自分なりに再構築する必要があると感じました。正直なところ、この作品の本質を捉えた例をまったく見つけられなかったので、他のミュージカルを参考にするのも困難でした。動きや歌声を通じて信仰や奇跡を表現する瞬間を、映画のなかでどこに配置すべきか構成する作業が中心になりました」と語るように、映画のすべての要素を有機的に組み合わせることが重要だったという。

ヴェネチア国際映画祭レッドカーペットでの集合写真
ヴェネチア国際映画祭レッドカーペットでの集合写真Credits Aleksander Kalka La Biennale di Venezia - Foto ASAC

2年連続でヴェネチアの熱狂的な支持を受け、現在最も注目される映画作家であるモナ・ファストヴォルドとブラディ・コーベット。音楽、ダンス、建築、そして映像を用いて芸術活動を続ける気鋭のクリエイターの新作は、2026年初夏に日本での公開も決定している。


取材・文/平井伊都子