胸に響く佐野晶哉や上白石萌歌の歌声…Awesome City Clubの楽曲からひも解く『トリツカレ男』
何度でも聴きたくなる!誰もが“トリツカレ”る劇中歌たち
atagiの作るバラエティーに富んだ歌の数々は、個性豊かなキャラクターたちに見事に息を吹き込まれている。最初に流れるミュージカルナンバーは、佐野が演じるジュゼッペによる「ジュゼッペのテーマ」だ。エレキギターがかき鳴らされ、どこか60年代のポップロックといった印象を受けるこの楽曲は、軽快なリズムと楽しい曲調から、ジュゼッペの明るい性格が表現され、まるで様々なことに興味津々な子どものよう。
これまでジュゼッペが本当に多彩なことにトリツカレてきたことや、一旦トリツカレたらほかのことが一切目に入らなくなること、街のみんなから愛されていることなど、ジュゼッペの様々なことが歌に乗せて説明されていく、いわゆる自己紹介ソングになっている。
そんなジュゼッペがペチカと出会い、2人での初デュエットとなるのが「ファンファーレ ~恋に浮かれて~」だ。お互いに惹かれ合い幸せな日々を過ごしていく様子が歌われた、高揚感と浮遊感にあふれたハッピーな楽曲だが、本作の音楽を製作するうえで、atagiはこの曲を最初に制作したとのこと。ペチカ役の上白石は同曲について「人と出会って胸が踊る感じ。本当に目に映るすべてが美しく見える感じがギュッと詰まっている」と称賛し、atagiも「パステルカラーや少しくすみある色合いの、アニメーションに同居する音楽をイメージした」とコメント。本作のテーマソングともいえる楽曲だ。
クセ強ソングから切ないバラードまで…想いの詰まった楽曲たちが物語を彩る
本作の音楽で少し異彩を放つのが、この街を牛耳るギャングのボス、ツイスト親分(声:山本高広)が登場シーンで歌う、ロックンロール/ロカビリー調の自己紹介ソング「That’s the bee’s knees !」。そのいかにも悪人な強面で、ドンパチも辞さないツイスト親分だが、実はユーモアを解する話のわかるやつということがこの曲から伝わってくる。ジュゼッペとは、とあるトリツカレたものをきっかけに意気投合して親友になり、物語の終盤のキーパーソンでもある。
また、ジュゼッペの相棒であるシエロ役の柿澤が歌う、切ないバラード「Snowish」は聴き応えがある。ジュゼッペは(外国語にトリツカレて)何か国語も話せる言語能力を活かし、ついにはネズミ語まで解し、そのネズミにシエロと名前を付けて友だちになる。しかしジュゼッペがとあることにトリツカレてしまううちに…。シエロの胸の内の悲しみと、ジュゼッペを思う温かい気持ちが切実に歌われて涙を誘う。
そしてAwesome City ClubのPORINが作詞を手掛けた「あいのうた」は、ペチカのもとに訪れた数々の奇跡はなぜ起きたのか、目を背けていた本当の気持ちが、まるでスケートリンクをクルクルと回りながら飛び上がるように歌われる。すべての点と点が一本の線でつながった時のように心が晴れ渡り、期待と希望に満ちあふれながら物語を大団円へと導いていく。
同じ楽曲なのに受け取り方が変わる!?多幸感に包まれる主題歌「ファンファーレ」
エンドロールではAwesome City Clubによる主題歌「ファンファーレ」が流れる。同曲は、ジュゼッペとペチカがデュエットで歌う「ファンファーレ ~恋に浮かれて~」と同じコード進行だが、“2人が歌うのとは異なる視点の「ファンファーレ」があったら『トリツカレ男』の愛にあふれたストーリーの後押しになるだろう”とのことで、歌詞を新たな視点で書き、Awesome City ClubのatagiとPORINが歌ったもの。
キラキラとしたギター、どこかシティポップのような心地よいリズム。タイトルにもあるファンファーレをホーンセクションが吹き鳴らし、鐘が打ち鳴らされ、まるでジュゼッペとペチカの未来を祝福するかのよう。シリアスな展開を経て物語のラストに訪れる多幸感が、そのまま歌になったような楽曲だ。
劇場の大画面と音響で、心温まる体験を味わう
本作の劇中歌は、バンド+オーケストラによるゴージャスかつ壮大なサウンドと2人のエモーショナルな歌声を、劇場の音響設備で聴くことによって、まるで目の前で躍動しながら歌い上げているかのような、臨場感を味わうことができるだろう。
また声優アーティストのトップランナーである水樹奈々がペチカの母親役で出演し、ちょっとだけ美声を響かせるシーンも見どころ。また、ペチカが憧れるタタン先生役を森川智之が務めており、歌唱シーンこそないものの、重厚感のある演技と思わず惚れてしまう声も実に聴き応えがある。観て楽しむのはもちろん、聴いて楽しめる“耳も幸せな作品”でもある『トリツカレ男』は、ぜひ映画館の大音量で堪能してほしい。
文/榑林史章
※記事初出時、人名表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
※高橋渉監督の「高」は「はしご高」が正式表記

