次にどんな言動を取るのか読めない謎の男“スズキタゴサク”…『爆弾』以外にもいた映画の中のヤバいおじさんたち
天才がゆえに綿密で狡猾『羊たちの沈黙』ハンニバル・レクター
天才と精神異常者は紙一重である。そのことを明確に印象づけた映画史上最も有名なシリアルキラーの一人が、アカデミー賞で主要5部門に輝いた『羊たちの沈黙』(91)のハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)だ。
獄中にいる凶悪犯のレクターは自分の患者を次々と死に追いやり、その臓器を食べるめちゃくちゃ危ないおじさんだが、もともとは多彩な知識を持ち合わせた天才的な精神科医で、洞察力が鋭く頭の回転が速い。FBIの訓練生クラリス(ジョディ・フォスター)は、上司の命令でそんなレクターと対面。世間を騒がせている凶悪な連続誘拐殺人事件の犯人のヒントを得ようとするが、彼は食い入るような瞳でクラリスの身なりや持ち物、話し方などから彼女の家庭環境や生活レベルなどを瞬時に分析して翻弄。さらに捜査に協力する代償に個人情報を提供するよう要求したり、謎の質問を次々にぶつけたりしてクラリスの心を揺さぶる。瞬きをほとんどしない鋭い眼光と威圧的な言動が狂気をはらんでいて、それだけでただぬらぬ存在であることを印象づけていた。
しかも、クライマックスでは臓器を食べるサイコパスならではの方法で脱獄をまんまと成功させ、猟奇性も全開!『エイリアン』(79)、『ブレードランナー』(82)などのリドリー・スコットが監督した続編の『ハンニバル』(01)でも、自分が捕えた司法省の役人の頭をクラリス(ジュリアン・ムーア)の眼の前で開頭。フライパンで焼いた脳みそを役人本人に食べさせるあり得ない行為で、“カニバリズムのレクター”をクローズアップして観る者を震撼させた。
“なにか”によっておかしくさせられてしまった男『シャイニング』ジャック・トランス
劇中で完全に壊れてしまうヤバいおじさんもいる。スティーヴン・キングの同名ベストセラーをスタンリー・キューブリック監督が映画化した『シャイニング』(80)で、ジャック・ニコルソンが体現した小説家志望のジャックだ。
豪雪で冬の間は閉鎖するホテルの管理人の職を得た彼は、妻のウェンディ(シェリー・デュヴァル)と霊能力を持つ息子ダニー(ダニー・ロイド)を連れてそのホテルにやってくる。ただし、そのホテルは以前の閉鎖時の管理人が孤独のあまり精神に異常をきたし、家族を斧で惨殺した挙げ句に自らも自殺したいわくつきの場所だったため、ダニーは様々な超常現象を目撃するようになる。そんななか、ジャックもいないはずのバーテンダーと話すようになったり、237号室で抱いたはずの裸の美女が老婆になるといったおぞましい現象に巻き込まれ、しだいにおかしくなっていく…。
ジャックはホテルにいる“なにか”に取り憑かれてしまうのだからもはや普通の人ではないのだが、その設定を具現化する強面のニコルソンの顔が狂気を帯びてくるからますます怖い。その顔で斧を持って追いかけてきて、ウェンディが隠れている部屋の鍵のかかったドアをぶち壊し、完全にイッてしまっている巨大な目で中を覗き込むシーンも有名だが、あれはもはや、おじさんの皮を被った巨大なモンスター。ヤバいどころの騒ぎじゃない。
体温、生気を感じない薄ら笑いにゾッとする!『凶悪』木村孝雄
『シャイニング』のジャックがキャラクター界隈のヤバいおじさんモンスターだとしたら、現実の社会にも潜んでいそうなリアルで怖いモンスターおじさんの代表格は『冷たい熱帯魚』(10)ででんでんが演じた村田と、『凶悪』(13)でリリー・フランキーが血肉を注ぎ込んだ「先生」だろうが、ここでは後者を紹介する。
雑誌ジャーナリストの藤井(山田孝之)が、東京拘置所で死刑囚のヤクザ、須藤(ピエール瀧)と面会。ほかの3つの殺人にも関与している彼が取材中に告白するのがすべての事件の首謀者である「先生」=木村だが、この凶悪犯はほかの犯罪映画やミステリーに出てくるヒールの誰にも似ていない。
まるで体温が感じられないし、殺しを悪いことだとも思っていない。それこそ、映画やドラマでよく見る悪人たちのように極悪非道な空気も纏っていないし、狂気をはらんでいるようにも見えない。空気を吸うのと同じように、ヘラヘラと笑いながら「とにかくお酒飲ませて殺しちゃうけど」なんてことをさらっと言い、それを手下にやらせるのだからマジで背筋が凍りつく。人間を生き物と思っていない、殺しに慣れた犯罪者は実際こんな感じなんだろうなという嫌な生々しさがあって、ビビリまくることになるのだ。
ざっとここまで、映画に登場する様々なヤバいおじさんをクローズアップしてきたが、『爆弾』のスズキタゴサクには彼らに共通する要素が含まれているようでもあり、彼らとはまるで次元の違うヤバさもはらんでいる。いずれにしても、令和最恐のヤバい奴。佐藤二朗のあの輝きをコントロールする瞳の裏には果たしてなにが隠されているのか?思いがけない真相が明かされる衝撃のラストシーンまで一瞬たりとも目が離せない。
文/イソガイマサト
※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記

 
             
                     
               
             
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
                 
               
                 
                 
               
               
                 
               
               
               
               
               
       
     
         
         
         
         
         
         
         
             
             
            