物語は食育から“食文化の継承”へ――鯨の竜田揚げ、筑前煮、せんべい汁…「おいしい給食」が誘う給食バトルの変遷

コラム

物語は食育から“食文化の継承”へ――鯨の竜田揚げ、筑前煮、せんべい汁…「おいしい給食」が誘う給食バトルの変遷

1980年代の中学校を舞台に、給食マニアの教師と生徒による「どちらが給食をおいしく食べられるか」という静かなる闘いを描いた「おいしい給食」シリーズ。市原隼人が給食をこよなく愛する中学校教師の甘利田幸男をパフォーマティブに熱演する、異色の学園グルメコメディだ。2019年にテレビドラマとしてスタートし、これまでにドラマ3シリーズが放送、劇場版3本が公開されている。

無言給食を徹底する花堺中学の管理教育者、樺沢(片桐仁)。甘利田とは対立する信念を持つようで…
無言給食を徹底する花堺中学の管理教育者、樺沢(片桐仁)。甘利田とは対立する信念を持つようで…[c]2025「おいしい給食」製作委員会

“今世紀最大の給食スペクタクルコメディ大作”と銘打たれた本シリーズの見どころは、なんといってもハイテンションな給食シーン。「給食のために学校に来ていると言っても過言ではない」と言い切る“給食絶対主義者”の甘利田は、普段は折り目正しく規律に厳しい教師ながら、給食の時間になると人が変わったようにテンションが急上昇。シリーズの恒例である給食前の校歌斉唱はダンスつきで熱唱し、ライバル視する生徒のアレンジ給食を見れば「うまそげじゃないか~!」と心の中で絶叫する。もはや顔芸の域にまで到達した市原の喜怒哀楽が笑いを誘い、その高い身体能力を活かしたオーバーリアクションも絶品だ。

給食を愛する甘利田とケン、それぞれの信念がぶつかる――
給食を愛する甘利田とケン、それぞれの信念がぶつかる――[c]2025「おいしい給食」製作委員会

万人の共感を呼ぶ「給食」という日常を、驚くほどエキサイティングに描きだす中毒性のあるコメディでありながら、同時に“楽しく食事をすることの大切さ”や“生徒との絆”を温かく映しだすヒューマンドラマでもある本シリーズ。この2つの魅力が絶妙に融合したことで多くのファンを獲得し、10月24日には待望の劇場版第4弾『おいしい給食 炎の修学旅行』が公開となった。

正統派の甘利田に立ちはだかったアレンジの天才

本シリーズを語るうえで欠かせないのが、甘利田の最初のライバルとなった常節中学校の生徒、神野ゴウ(佐藤大志)の存在だ。給食の“実食”に正統派で挑む甘利田に対し、“アレンジ給食の天才”である神野は独創的な発想で次々と新しい食べ方を披露。やがて2人は互いの給食愛を認め合い、ライバルでありながらどこか師弟のような関係を築いていく。

そんな2人の関係の始まりにして象徴とも呼べるシーンが、シーズン1の第1話「鯨の竜田揚げ」のエピソード。かつて学校給食で定番だった懐かしのメニューを前に、神野は持参したタルタルソースを竜田揚げにたっぷりかけてコッペパンに挟み、即席のフィッシュバーガーにアレンジする。その掟破りの創作を目の当たりにした甘利田は「なんて…やつだ…」と呆然!さらに神野はミルメーク(いちご味)に持参したいちごジャムを混ぜ、より果実感たっぷりの“デザート牛乳”を生みだすなど、まさにアレンジ給食の革命児として名を刻んだ。

そして教育委員会の給食廃止に抗った結果、甘利田は黍名子中学校へ転勤。シーズン2では、偶然にも黍名子中に転校してきた神野との給食バトルが再び幕を開ける。そのなかでも印象的だったのが、第2話の「筑前煮対決」だ。甘利田が具材を順に味わう“味のリレー”に終始していたのに対し、神野は筑前煮をごはんと混ぜて“炊き込みご飯風”として見事な一品に仕上げて完勝。さらにデザートのコーヒーゼリーと牛乳をシェイカーで混ぜて“自家製コーヒー牛乳”にしたり、「冷やし中華対決」では、別盛りだった麺と具をそのまま食す甘利田を横目に、持参したガラスの器に盛りつけ直して見た目まで演出するなど、神野の自由な発想が冴え渡っていた。

そんな神野の卒業を描いた『劇場版 おいしい給食 卒業』(22)では、冒頭で「ナポリタン対決」が描かれ胃袋を刺激するが(オムナポにした神野の圧勝!)、彼の卒業では共に“給食道”に邁進した2人の絆が感じられ、感動させられた。


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