前田真宏が『トロン:アレス』の世界をイラストで表現!シリーズが挑み続ける革新性、そしてAIに対する考え方は?
1982年に映画史を変えた革新的SF超大作『トロン』。その待望のシリーズ最新作で、人類とAIの戦いを描く『トロン:アレス』が公開を迎えた。MOVIE WALKER PRESSではこの公開を記念して、革新的な技術とビジュアルで世界を席巻した「トロン」シリーズが、クリエイターにどのような影響を与えたのかをテーマにインタビューを敢行!
梅津泰臣監督に続く第2弾は、「エヴァンゲリオン」シリーズなどでアニメーション監督やアニメーター・デザイナーとして活躍し、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)ではコンセプトアート&デザインを務めた前田真宏監督。映画ライターの渡辺麻紀を聞き手に、シリーズ第1作『トロン』の衝撃や革新的だったデザイン、『トロン:アレス』への期待やジョージ・ミラー監督とも話したという“クリエイターにとってのAI”についてまで語ってもらった。
「ビジュアルを創造しようというアイデアとパワーこそがすばらしい」
――前田さんは『トロン』を公開時に観て衝撃を受けたとお伺いしています。
「そもそも僕はSFファンタジー系の映画や小説のファンで、当時の僕の愛読誌は『スターログ』というSFビジュアル誌だったんです。いまは日米同時公開が当たり前ですが1970~80年代は1年遅れもざら。最初の『スター・ウォーズ』(77)だって全米公開から1年後、やっと公開でしたからね。そういうなかで、SF&ファンタジーファンの貴重な情報源のひとつが『スターログ』だった。僕は毎月、読んでいて『トロン』の存在もこの雑誌で初めて知ったんです。話題作はかなり早い時期から紹介していて、公開時には写真をふんだんに使った特集を組んでいました」
――これが当時の「スターログ」です。大特集を組んでますね。「衝撃のコンピュータ映像体験映画『トロン』」と書かれています。
「わー、これは懐かしい。まさにこれを読んで劇場に行ったんです(笑)」
――前田さんはコンピュータの知識は当時からもっていたんですか?
「知ってはいましたが詳しくはなく、いまのように身近な存在ではなかった。映画でも『2001年宇宙の旅』(68)にHAL9000が出てくるわけだし、ビデオゲームもすでにポピュラーで、パソコンをマイコンやマイクロコンピュータと呼んでいたように記憶しています。そういう知識はありましたが、まだウィリアム・ギブスンの(サイバーパンクSF小説)『ニューロマンサー』が出版される前だったので、“サイバースペース=電脳空間”という概念はあやふやだったんじゃないかな。だから、僕のなかでサイバースペースを最初にビジュアル化したのが『トロン』という認識になる。ワイヤーフレームを使った短編などは僕の高校時代からすでに作られていたと思いますが、それを長編でサイバースペースの表現に使うというのはSF者からするとびっくりというか『なるほど!』という感じだったわけです」
――ギブスンの「ニューロマンサー」はアメリカでは1984年、日本では1986年に出版されています。ちなみに『ブレードランナー』と『トロン』は同じ1982年に日本公開されていて『ブレードランナー』が7月、『トロン』が9月と、2か月違いで公開されていますね。
「なるほど、そういう順番なんだ。1980年代の前半はやはりSF映画の過渡期だったということですね。
そういうなかでもチャレンジングだった1本が『トロン』だと思います。サイバースペースにプログラム化された人間が入り、その世界と有様をコンピュータグラフィックスで描くんですから斬新ですよ。『ネットワーク』だとか『RAM』『MCP(マスター・コントロール・プログラム)』とかいう、いまでは当たり前の名称もここで初めて聞いたんじゃないかな。公開当時、美大生だった僕は劇場で観て、そういうビジュアルに驚くと共に、そういうネーミングもかっこいいなって(笑)。先ほども言ったように、コンピュータに対する基本的なイメージはあったものの、身近なものとしては捉えられてなかったのが、この『トロン』でやっと進歩したという感じでしょうか」
――映画のエンドクレジットに漢字の名前がたくさん出ていて、これはなんなんだと疑問に思っていたら、あとで台湾のアニメーターだということがわかり、それも話題になってましたね。
「CGの大部分、台湾のアニメーターたちが手描きしたアニメーションだと僕もあとから知りましたが、観た時はそんなふうにはまるで思わなかった。手描きであろうが本当のCGであろうが、凄く手間がかかっていることは間違いないし、そういうビジュアルを創造しようというアイデアとパワーこそがすばらしいですよ。それでもサイバースペースを描こうとしたところに大きな意義があるということです。そういうチャレンジをしないと映像も技術も進化しませんから。
考えてみたら『スター・ウォーズ』が公開されたあとのディズニーの実写部門は『ブラックホール』(79)も撮っていて、チャレンジングな印象が強い。この時期、『エイリアン』(79)や『ブレードランナー』も公開されているから、いろんな意味でSFが進化していた時代で、『トロン』もその1本に数えられるんじゃないでしょうか」
「シド・ミードがデザインしたライトサイクルは、文句ナシにかっこいい」
――『ブレードランナー』でコンセプチュアルデザインを担当したインダストリアルデザイナーのシド・ミードが、ライトサイクルを始めとしたメカのデザインをやっています。あとコスチュームはフランスのバンド・デシネのアーティスト、メビウスです。
「メビウスは当時から知っていて、シド・ミードのほうはやっぱり『ブレードランナー』で映画ファンに定着した感じがしますね。彼の画集『センチネル』、僕も大枚叩いて洋書で買いましたから。
『トロン』と『ブレードランナー』、どちらを先に観たのか覚えてないけど、どちらとも大きなインパクトがあったのは記憶しています。とりわけ僕が好きだったのはライトサイクル。これは文句ナシにかっこいい。メビウスのサイバー空間のコスチュームデザインも、彼らしくて好きでした。コスチュームの質感や素材が1980年代仕様だけど、そのあと『トロン:レガシー』などでもデザインは継承されている。1970年代の後半、(アレハンドロ・)ホドロフスキーが(フランク・)ハーバートの『デューン』の実写映画化企画でメビウスや(H・R・)ギーガーなど、異業種のアーティストを集めたけど、結局は実現には至らなかった。そういうところからもヒントを得て、映画界とは離れたところにいるアーティストを起用したのかもしれない。メビウスが参加しているからそう思っちゃうのかもしれませんが」
――ストーリーはいかがでしたか?
「サイバースペースに人間が呑み込まれる…という設定はいまでは常識的ですが、この時代ではとても新鮮でした。人間がデジタル化されてサイバースペースに入り、そこからまた現実世界に戻って来る。ヒロインがベテランの博士とやっている研究でしたよね。そういうのも初めてというか画期的だった。いろんなことを先取りしているという印象。この手のテクノロジー系SFのひとつのパターンの先駆者的作品というか、道を示すような役割を果たしたんだと思います」
――そうかもしれませんね。久しぶりに観直したと伺っていますが、いま観るとどんな印象でした?
「今回の僕の最初の印象は“甘酸っぱい”。なぜって、そういうビジュアルやテーマもそうなんですが、金曜の夜にゲーセンに集まって子どもたちがワヤワヤやっている映像とか街の雰囲気など、本当に甘酸っぱい。当時のことをいろいろ思い出したりして、自分の青春時代と重なっちゃうからでしょうね、きっと(笑)」

■「雑 前田真宏 雑画集」
価格/6,600円(税込)
判型/A4変形(250mm×210mm)
ページ数/240P(フルカラー)
責任編集/前田真宏
※詳細は特設サイトをご確認ください。