鬼才・梅津泰臣が語る、“最先端のビジュアル”を描く「トロン」の使命。監督最新作『ヴァージン・パンク』の武器は「絶対に影響受けてます」
「このシリーズの使命のひとつは“その時代の最先端のビジュアル”」
――「トロン」シリーズの最新作『トロン:アレス』はどういうところに期待していますか?今回、ジャレット・レトが主演で29分しか生存できないAI兵士たちが現実世界を侵食する…というストーリーです。
「やっぱりプロダクションデザインや、メカなどのコンセプチュアルデザインになりますね。予告編ではシリーズでは重要なアイテムのバイクが新しいデザインになっているようだったし、空を飛ぶメカが登場し、高速を走る車が真っ二つになったりしていて気になる要素がたくさんあった。それに今回、AIが現実世界に飛び出してくるんでしょ?そういうデジタル界のアイテムが現実世界とどう融合しているのか気になりますね。いまは世界中がAIを気にしているから、まさにタイムリーなテーマだと思います。それに、クリエイターとしては、このシリーズの使命のひとつは“その時代の最先端のビジュアル”だと考えているのでチェックしなきゃいけない1本です、間違いなく。
もうひとつ、気になっているのは役者。僕は『レガシー』のオリビア・ワイルドがとても好きだったんです。なんとなく押井(守)さんが好きそうだなって思いましたが…」
――梅津さん、それは正しいですよ。押井さんは『レガシー』で彼女しか見てなかったというくらい(笑)。あのおかっぱヘアスタイルにキャットスーツがポイントのようです。
「やっぱり(笑)。まあ、僕もそうなんですけどね。彼女、『アレス』にも出ているんですか?『レガシー』の最後、現実世界に来て『朝日がきれい』って言ってますよね。あの終わり方も好きだったんですが。どうなるんだろうって思いません?』
――そうなんですけど彼女、出てないんですよね。
「それは残念。だったらジェフ・ブリッジスは?そもそも彼は大好きな役者の一人で『レガシー』の時はリアルな年齢の彼と、デジタルで作られた若い彼が出てきて対峙するのがおもしろかった。彼がグリッドのなかで住んでいる空間が『2001年宇宙の旅』みたいなところもSFファン的にはニヤリとするポイントですよね」
――ブリッジスは出てきます!あの電脳世界、グリッドを創ったクリエイターで、「トロン」シリーズを引っ張る存在だから、本作でも重要なキャラクターとして登場しています。
「それはうれしいなあ」
――では、最後の質問です。「トロン」シリーズはAIという概念が確立してない最初の時からその在り方を描いていました。いま、現在はAIが驚くほど日常的になりましたが、梅津監督はAIについてはどういう考えをお持ちでしょうか?
「『ヴァージン・パンク』の主題歌の、最初のデモの時、AIに唄わせてみたんです。歌詞を入力し、女性ボーカルであることなど、こっちのイメージを伝えると、本当にそういう感じで唄ってくれる。その最初のデモを聴いた時は本当に驚いたんです。『いや、これでも大丈夫じゃない?』というくらいだったから。ところが、そのあと、実際の女性のボーカルで唄ってもらったら全然違う。生のほうがシャウトしているし、やっぱりAIでは表現できないことがあるんだと思いましたね」
――最初はAIで行けるかもと思ったんですね?
「はい。AIバージョンだけを聴いた時はそう思ったんだけど、人間の生の声と聴き比べると一瞬でその差に気づくくらいの違いがある。やっぱりAIが人間に取って代わることはないだろうというのが、いま現在の僕の結論。絵の場合も多分、同じ。AIは人間には適わないと思っています、いまは!」
取材・文/渡辺麻紀