こだわりのサウンドとビジュアルで『秒速5センチメートル』を紡いだ奥山由之監督が信じる映画の力「世界の多面性に気づかされる」【連載「I’m a moviegoer」】
「サウンドデザイン面のこだわりを体感していただくためにも、『秒速5センチメートル』はできる限り映画館で観ていただきたい」
――映画館での鑑賞スタイルにこだわりはありますか?
「なるべく客席全体の真ん中に座ります。音にすごく敏感なので、端だと首が痛くなるし、音のバランスも気になる。『秒速』では音の制作過程に長い時間を割きました。カットごとに細かく指示を出して、主題歌を担当してくれた米津玄師さんとも、最後の最後まで1dB(デシベル)上げるかどうするかを話し合って、各所何度も何度も調整しました。だからサウンドデザイン面のこだわりを体感していただくためにも、『秒速』はできる限り映画館で観ていただきたいです。例えば、貴樹が会社の上司と屋上で話すシーンでは、風の音やたこ焼きの味など、日常の豊かさを音でも表現しています。シャボン玉で遊んでいる子どもたちの声も、貴樹と明里の子ども時代の声を混ぜていて、潜在的に記憶に作用するようにしています」
――昨年公開された奥山さんの監督作『アット・ザ・ベンチ』では、never young beachの安部勇磨さんが音楽を担当されていました。サウンド面のアプローチも作品によって変えていますか?
「『アット・ザ・ベンチ』は映像や物語の世界観と、音楽があまり寄り添わない形にしてみましたが、今回の『秒速』は真逆。音楽の江崎文武さんと1年半ほどかけて、撮影前にイメージアルバムを作ったんです。まずサウンドだけで作品の世界観をしっかり構築しようと。江崎さんには80曲くらい作っていただいて、そこから本編には約30曲を使用し、1フレーム単位でタイミングを調整しました。全楽器を江崎さんが演奏し、自宅で録音。米津さんも作詞作曲編曲を一人で手掛けていて、個人の原風景が音楽に宿っています」
――“個人の原風景”が作品世界を紡ぐという方法意識は、視覚面でも『秒速』では徹底されていますよね。
「うれしいご指摘ありがとうございます。例えば岩舟で再会した貴樹(上田悠斗)と明里(白山乃愛)が桜の木を見上げるシーンでは雪が舞っているのですが、彼らには精神的に雪ではなく桜が見えている描写を1カットだけ忍ばせています。それは小学生の頃、帰り道で一緒に桜を見上げて会話したときの感情を引きつれているから。記憶が視覚的な非現実を呼び込む瞬間があるんです」
――個人の記憶や想いが、現実の風景や光景を変容させることがある。これは我々観客にとっても“世界の見え方”が変わる瞬間ですね。
「そういう多面的な視点を持てる作品に強く惹かれますし、自分も目指したいと思っています。現実と非現実が交錯することで、僕らが無意識のうちに抱いている常識が剥がれていく感覚がある。映画や物語のパワーって、不意に世界の多面性に気づかされる…自分の認識や想像力が拡張される可能性にも作用するものだと思います」
取材・文/森直人
※江崎文武の「崎」は「たつさき」が正式表記
カラー:ホワイト・ブラック・ヘイジーネイビー
サイズ:M、L、XL
販売価格:5,500円(税込)
発売店舗:
(オンライン販売)MOVIE WALKER STORE ※10月10日 10:00~予約販売
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