こだわりのサウンドとビジュアルで『秒速5センチメートル』を紡いだ奥山由之監督が信じる映画の力「世界の多面性に気づかされる」【連載「I’m a moviegoer」】
「映画を“体験しにいく”ところとして、映画館という場所は昔よりもいまのほうが特別なものを感じます」
――一人で最初に観に行った映画は覚えていますか?
「う~ん…最初は思い出せないんですけど、最近ひとりでよく観た映画で言うと『パスト ライブス/再会』ですね。4回映画館に観に行きました」
――ハマっちゃいましたか(笑)。『パスト ライブス/再会』は『秒速』に通じる内容ですよね。
「そうなんですよ。画面設計が巧みで。セリーヌ・ソン監督はもともと劇作家なんですよね。インタビューでは黒澤明監督の『天国と地獄』からの影響も語られていましたが、舞台演出を応用した人物配置で時系列を伝える工夫など、『秒速』を作るに当たってもいろいろ勉強になりました。映画館という場所に関しては、昔よりもいまのほうが特別なものを感じますね。映画を“体験しにいく”ところとして。例えば配信などの手軽な鑑賞では、“視聴”にはなっても“体験”にはなりにくい気がします」
――『秒速』の中では1996年の日本映画『月とキャベツ』に絡めて、「内容はよく覚えていないけど、映画館の空気と一体になって記憶に残ってる」という印象的な台詞がありましたね。
「あの台詞は(脚本家の)鈴木史子さんが書かれたものですが、僕も非常に共感しています。そもそも映画ってすべてのシーンを持ち帰るのは難しくて、瞬間の表情だったり、限られたシーンのほうが記憶に残る。写真はむしろ逆だと思うんですよね。僕がまだ写真家としての活動を始める前、テート・モダン(ロンドンの美術館)で観たブルース・デビッドソンの『サブウェイ』展にすごく衝撃を受けたんです。1970年代後半~1980年代のニューヨークの地下鉄を撮ったシリーズなんですが、僕の知らない時代や場所なのに、撮られた瞬間以外の音や匂いまで感じられるような感覚があって。僕の中では映像的な記憶として残りました。写真って一瞬を切り取るけど、その一瞬以外のすべてが補完的に頭の中で再生される。映画はむしろ写真的に記憶されることが多いと思います」
――中学生の時にストップモーションアニメを作られていたとおっしゃいましたが、奥山さんは高校時代から自主映画作家として活躍されていますよね。
「…恥ずかしい(笑)。そのへんの話、たまたまですがあまりしてこなかったんですよ」
――「映画甲子園」こと高校生映画コンクールの第2回(2007年)では、慶応義塾高校名義で出品された『ワッショイ!』がグランプリ受賞。そのころ、「CRANK PLAN」という制作集団を立ち上げられて、大学在籍時の2010年には、なんと松居大悟さん主演で『パニック・コミック』という自主映画を撮られています。その翌年、2011年には『Girl』で写真新世紀賞を受賞されて、写真家としてのキャリアを歩まれることになります。あのころは転機でしたか?
「そうですね。最初は映画のコンテを描くために、写真を撮ってそれを模写するという作業を繰り返していたんですよ。その流れのなかで、中古カメラ屋さんで購入したデジタル一眼レフで初めて撮った時に、ある“気づき”があって。写真って瞬間だからこそ余白があって、台詞も音も時間の流れもない。伝えすぎないことで観る人が想像する。その奥ゆかしい曖昧性みたいなものに惹かれて、だんだん写真表現にのめり込んでいきました」
――写真が余白の表現だとすると、今回の映画のクリエーションでは逆に情報をぎっしり詰め込んでますよね。先ほど、キャストやスタッフの皆さんのみで共有したという100ページ越えのテキストブックを拝見したんですが、これ衝撃でした!
「映画で直接描かれていない登場人物たちの生い立ちや時代背景などを、できるだけ具体的に細かく詰めていきました。誰がどの学校に進学して、どんな想いで日常を送っていて、その時代には社会で何が起こったか、携帯電話の機種はどうだったとか…。撮影現場でできることには時間的にも体力的にも限界があるので、準備段階でどれだけ世界をしっかり構築できるかが大事だと思いました。設定や背景、小道具まで整合性を持たせておかないと、偶発的なものを捉える余裕がなくなる。舟に例えるなら、荒波が来てから舵を切るより、そもそも舟自体をしっかり作っておくことが重要。その意味では準備段階から、すでに撮影が始まっているというような意識がありました」
カラー:ホワイト・ブラック・ヘイジーネイビー
サイズ:M、L、XL
販売価格:5,500円(税込)
発売店舗:
(オンライン販売)MOVIE WALKER STORE ※10月10日 10:00~予約販売
https://store.moviewalker.jp/item/detail/3176
(店頭販売)グランドシネマサンシャイン池袋 4Fストア 10月10日劇場オープン時より発売
https://www.cinemasunshine.co.jp/theater/gdcs/
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