レトロフューチャーな日本から共産圏の香り漂うリゾートまで、ウェス・アンダーソンが作り上げてきた箱庭的架空都市
ヨーロッパの架空の国家を作り上げた『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』
このほかにも撮影が行われたロードアイランド州をはじめとするニューイングランドの海岸沿いの風景をモデルとした架空の島、ニューペンザンス島を描いた『ムーンライズ・キングダム』(12)。“劇中劇”の舞台として、アメリカ南西部の砂漠にポツンと存在する小さな町アステロイド・シティを作り上げた『アステロイド・シティ』(23)など、実在する場所、歴史をモデルにしながら箱庭的な世界観を作り上げてきたアンダーソン。
最新作となる『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』は、その影響力の大きさから、ライバル企業だけでなく各国の政府からも命をねらわれる大富豪のザ・ザ・コルダ(ベニチオ・デル・トロ)が、キャリアの集大成となるインフラを整備計画を実現するべく、自身の後継者となる疎遠の娘リーズル(ミア・スレアプレトン)と共に資金集めの旅に出るというストーリー。
この舞台となるのが1950年代、ヨーロッパの大独立国という設定の架空の国フェニキアだ。フェニキアとは現在のレバノンを中心とする一帯の歴史的地名。近東の砂漠的風景など多彩な世界観は、意外にもドイツのポツダムにある歴史的なバーベルスベルク・スタジオで撮影を行い、作り上げられた。
また欧州一の富豪と呼ばれるザ・ザの屋敷も一つの舞台で、ポルトガルの実業家カルースト・グルベンキアンのパリの屋敷からインスピレーションを受けている。本物の美術品を飾ることで彼のとてつもない財力に説得力を持たせると、さらにベルリン一帯の城や邸宅でよく用いられたトロンプルイユ技法を駆使した大理石風の壁と柱など装飾もこだわり抜き、大富豪像を浮かび上がらせた。
自らが描きたい世界観を細部まで徹底した美術で作り上げているウェス・アンダーソン監督。個性的ながら多くの人を引きつけて止まないその魅力を、最新作『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』を含めたこれらの作品で堪能したい。
文/サンクレイオ翼