「攻殻機動隊 S.A.C.」神山健治監督が分析する、エイリアンのデザインと生態。「エイリアン:アース」で感じた、シリーズ共通の“閉鎖空間”とは?
「今回はエイリアンとウェンディの“ハイブリッド”なのか?と思う瞬間があります」
――そのお話をお伺いすると、本シリーズ、これまで目にしたことのないエイリアンがたくさん出てくるので神山さん的にはおもしろかったのでは?
「おもしろかったですね。そうやってエイリアンに着目していると、実はもうほとんどパターンが出尽くした感がある。だから新シリーズはどうするんだろう?と思っていたら、既成のエイリアンとは違う連中を出してきた。大きさもデザインも違えば、生態も違う。おなじみのエイリアンがいて、大きなハエやアリのような羽根をもったのも出てくる。溶媒液のようなものを出しながら獲物を食べていましたよね。宇宙人の典型的なパターンであるタコ足のついた目玉エイリアンも登場する。この目玉エイリアン、知性があるようじゃないですか?」
――人間や動物の既存の目玉をくりぬいて自分が新しい目玉になる。そうするとヒツジが二本足で立ち上がったりしますから。
「うん。そこ、めちゃくちゃ気になりますよね。今回の主人公であるハイブリッド(アンドロイドの身体に人間の記憶を移植した最新型)の少女、ウェンディはエイリアンと会話しているようで、しかもそのコミュニケーション能力がどんどんアップしている感じがする。こういう展開はこれまでなかったでしょ。1作目からずっとエイリアンは人類の敵であって、それ以外のなにものでもなかった。だから、もしかして敢えてそういう展開にしているのか?ここにきて、異種でも分かり合えるはずだ、みたいな物語にしたいのかなとも思えてしまいました。分断が叫ばれているいまの時代を考えれば、そういう展開、あってもおかしくない」
――確かに!そもそも6話でウェンディ、人間の思い込み的というか短絡的な思考にNGを出してましたものね。
「そうです。妊娠したというハイブリッドの少女(ニブス)に対しても『ありえない』からという理由で調べることもしないし、ウェンディのお兄さん(ジョー)はエイリアンを敵、邪悪と決めつけている。そういう人間の偏狭さに対してウェンディは待ったを突きつけていると思いました。ほら、ウェンディって年を取らない、死なないということを考えるとある意味、完璧な存在でしょ?そういう彼女が、完全生物と呼ばれるエイリアンと異種交流するのはとてもおもしろい。映画の『エイリアン』シリーズにはすでにエイリアンの運動能力とリプリーの知性を持ったハイブリッドが出てきますが、今回はそれがエイリアンとウェンディのハイブリッドなのか?なとど思ってしまう瞬間、ありますよね」
――完全同士だから通じ合えるのかも?
「シンプルだけど、そういうのもアリだったりして(笑)」
――お話をお伺いすると、この公式のビジュアル、それを意味しているのか…?なんて深読みしてしまいますね。エイリアンの頭の部分にウェンディの顔の上部と頭が重なっている。
「ああ、このビジュアル。確かにかなり思わせぶりですね。“エイリアン”と“ハイブリッド”のハイブリッドをイメージしているようにも見える。これだとエイリアンの中に人間の姿をしたハイブリッドが入っている感じ。おもしろいなあ」
――ついいろいろ考えてしまいますね。
「そうなんです。もうひとつ、“完璧”“完全”というところに着目すれば、リドリー・スコットがこだわっている創造主や神の話にも通じてくるからおもしろいんです。僕は『ブレードランナー:ブラックロータス』をやった時、間接的にスコットの意志や意見を聞きましたが、その時この人は“神”に興味があるんだろう、もしかして自分が“神”になりたいのか?…いろいろ考えてしまいました。改めて『ブレードランナー2049』(17)を観ると、やっぱりそうなの?とかね。詳しくは言えないんですけど(笑)。だから、やっぱりスコット色は強いですよ」