森下suuが感銘!手話がつなぐ心と恋――漫画「ゆびさきと恋々」に重なる映画『君の声を聴かせて』の世界
「観終わった後に、必ずもう一度観たくなる映画です」(マキロ)
――構図に注目した視点は、なちやん先生ならでは。とても興味深いです。他に工夫しているシーンとして、気になる場面はありましたか。
なちやん「ヨルムとヨンジュン出会いのシーンは場所からもフレッシュさが感じられたり、2人の距離が離れて暗い気持ちになるような場面では、影の落ちるような場所。クライマックスは緑豊かな場所で彼らの様子を捉えるなど、ロケーションや構図が登場人物の心情にものすごくマッチしていました。それでいてどのシーンも彼らの感情を誇張するような描き方ではなく、自然の光や緑を利用しながら作り上げられているので、まるで世界がヨルムとヨンジュンを包み込んでいるようで美しいシーンばかりでした」
マキロ「そうそう!日の光など、この世界にあるものを使って2人を輝かせているのがとてもよかったなと思いました。私がそういう年齢になったからかもしれませんが、俯瞰しながらヨルムとヨンジュンの恋愛を見守っているような気持ちになりました」
なちやん「私は、彼らの“壁”になろう!と思えたよね」
――雪と逸臣の恋も、壁になった気持ちで見守っている人は多いと思います。
なちやん「壁になってくださると、すごくうれしいです!」
――どのような人にオススメしたい映画でしょうか。
マキロ「ほのぼのテイストで物語が展開しつつも、軸がしっかりとある映画ですよね。姉妹や家族の絆も描かれていて、本当にすごくいい作品だなと思いました。『ここでキュンとして!』という押し付けがあるのではなく、観た人それぞれの感性に任せているところもすばらしい。お世辞抜きに、大好きな映画です。忙しくて『毎日しんどいな』と感じていたり、情報過多になっている方たちに、日常でまとわりついたいろいろなものを削ぎ落として、ぜひこの世界に没入していただきたいなと思いました。そして観終わった後に、必ずもう一度観たくなる映画です。愛の原点回帰を目にしたようで、久しぶりに心の奥底までじんわりと温まる映画を観られた気がしています」
なちやん「復讐劇やとんでもない不幸が起きたりするようなドロドロとした韓国映画も大好きですが、こういったピュアで感動的な作品も最高です。ドイツに行った時には機内で6本も映画を観たんですが、もっとも心と頭、視覚にも残ったのが本作です。そういった作品にはなかなか出会えないので、本当に観てよかったなと思いました。また日本と韓国の手話は似ているところもあり、そういった意味でも楽しめる映画でした」
マキロ「私は日本と韓国でどれくらい同じ手話の表現があるんだろうと、メモしながら観ていたんです。“友だち”、“ありがとう”、“電話”、“助ける”など、似た表現がたくさんありました。いま手話を勉強している方が観ても、おもしろいのではないでしょうか」
なちやん「ろう者のキャラクターが登場するとなると、当事者の方のなかには警戒する人もいると思うんですが、本作は安心して観られる映画だとオススメしたいです。そして構図の勉強にもなる映画で、クリエイティブなことに携わる方にもオススメ。あまりにもステキだったので、私たちももっと頑張らないと!とクリエイティブな面でも刺激をもらいました」
マキロ「なんだか、負けていられない!という危機感すら覚えて、もっと頑張りたいなと思いました。『ゆびさきと恋々』に取り掛かる際には、聴覚障がいのある方に『これは違和感がある』『こういう描き方は嫌だ』『こういうことに困っている』などいろいろな話を聞いてから臨みましたが、私たちは実在するろう者の方を描くのではなく、自分たちのキャラクターを描かなければいけないと思っています。自分たちのキャラクターである雪という女性を描くことを、大切にしていきたいです」
取材・文/成田おり枝