呪物コレクター・田中俊行が語る『火喰鳥を、喰う』における呪物の在り方「戦死者の呪物を利用するのは、理にかなったすばらしい着眼点」
「執着の力を利用するという使い方は実際にあるんです」
日本に帰りたいと願い続けた貞市の思念が込められた手帳は、何者かの思惑によって故郷へと届けられ、そこで呪いが拡散されていく。その展開について田中は「王道の呪物もの」と言いきる。「貞市さんは餓死したのではないかと推測しますが、生きたくてしかたなかったのでしょう。このように未練を持って亡くなった人の思いはすごく強いので、その執着の力を利用するという使い方は実際にあるんです。生への執着、未練の力は最も強いという考え方もあります。実際に若くして事故で亡くなった人の思いを使って作られたものもあり、すごく強い呪物とされています。戦死者の呪物を利用するのは、理にかなったすばらしい着眼点だと思います」。
雄司と夕里子と共に貞市の呪いに立ち向かうのが、夕里子の大学時代の知人、北斗だ。霊能力を持つ彼は、日記の解明において中心的な役割を演じるキーマン。田中は彼の取り組み方を「呪いに対する行動一つひとつがうまいし、設定としてもかなり完璧だったと多います」と振り返る。そんな北斗を演じているのが、人気グループSnow Manの宮舘涼太だ。映画『おそ松さん』(22)やドラマ「大奥」など俳優としても活躍している“舘様”こと宮舘は、空気を読まないナルシストな北斗を優雅な所作で熱演。そんな宮舘を田中は、「結構クセがある人物ですが、目が離せなくなりました」と称賛。従軍手帳から強い思念を感じ取った北斗は、それを“籠り(こもり)”と呼んでいる。田中はその表現を「新しい」と指摘した。「籠(こも)るという言い方は初めて聞きましたが、呪物は人の思いや念が宿ったものですから意味としては正しいですね。これまでにない表現でおもしろいと思いました」。
貞市の手帳に触れた人々に、次々と異変が起こる本作。雄司たちは、貞市の思念によって生みだされた“もうひとつの世界”に取り込まれていく。実際に呪物に触れるのは、危険を伴う行為だとされている。「接触することによって、関係性が生まれてしまいます。特に念が強いもの、“よくないもの”に触れるのは災いを呼ぶ危険な行為です」。劇中では最初に異変に見舞われるのは夕里子の弟、亮(豊田裕大)。その後も貞市の弟である雄司の祖父や貞市の戦友など、貞市に所縁のある人物が犠牲になっていく。近親者であるのもポイントだという。「呪術を発動させるにあたっては、他人ではなく近い人、関係性があればある人ほど力が強くなるという考え方があります。親族に呪物を渡すことで、より呪いは効くはずです」。