実写版『ヒックとドラゴン』のこだわりをディーン・デュボア監督が明かす「キャラクターやストーリーの“魂”の部分を守りたい」

実写版『ヒックとドラゴン』のこだわりをディーン・デュボア監督が明かす「キャラクターやストーリーの“魂”の部分を守りたい」

「キャラクターの本質や性格を表現できる俳優を探した」

かくしてアニメーション版で見せた構図やキャラクターの描き方も踏まえつつ、実写として違和感なく拡張された作品へと仕上がっていった。ところが実際は、アニメーション版よりも実写版のほうが上映時間は長い。では、どんなところに重きを載せて描いてきただろうか?

「このストーリーを実写版するにあたり、より掘り下げたいと考えたのは、ヒックたちバイキングに伝わる神話や、彼らの文化的背景の描写です。なぜ彼らがドラゴンたちの棲む地域にたどり着いたのかを描きたいと思ったんですね。またアニメーション版では、一部のキャラクターの描写が簡略されていたため、実写版ではキャラクター同士の関係性を、もうちょっと深く、かつじっくりと見せたいとも思いました」。

バイキングの伝説や文化も丁寧に描写されている
バイキングの伝説や文化も丁寧に描写されている[c]2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

そして、目を見張るのは、そういったキャラクターたちを演じた役者たちのなりきりぶりだ。外見の再現に留まらず、それぞれがアニメーション版のキャラクターの芯の部分をしっかりととらえて演じている。

「実写版ではキャラクターの本質や性格を表現できる俳優を探しました。見た目が似ているかどうかより、内面的な一致を重視したため、選んだ役者さんには、外見的にキャラクターに似ている人もいれば、そうでもない人もいます」。

アスティら次世代のバイキング戦士は、ドラゴンの退治方法を習う
アスティら次世代のバイキング戦士は、ドラゴンの退治方法を習う[c]2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

なかでも驚くのは、アニメーション版でも声をあてていたジェラルド・バトラーだ。ヒックの父であり、バイキングの長であるストイックに演じ、役に完全に溶け込んだ姿を見せている。初見ではバトラー本人と気づかないほどの仕上がりだった。

「本当は、ジェラルドはこの映画には出られない予定だったんです。ちょうど撮影期間に別の作品への出演が決まっていて。ところが2023年に俳優のストライキが起こったことで、いくつかのプロジェクトが延期になったんです。それでバトラーのスケジュールが空いて、演じてもらうことができるようになったというわけです。まさに奇跡ですよ!」

名優、ジェラルド・バトラーがヒックの父で族長のストイックを演じる
名優、ジェラルド・バトラーがヒックの父で族長のストイックを演じる[c]2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

「今回はもっと“動物”としての存在に寄せたいと考えた」

また大きなチャレンジもあった。それはキャラクターたちがドラゴンにまたがって空を飛ぶ様子を、違和感なく見せるということだった。

「実際の俳優さんがドラゴンに乗って、空を飛び回り、しかもそれを迫真の演技として見せるのは、相当に大変なことでした。そのためには、いくつか新しい技術を発明しないといけなかったんです。そこで開発されたのがロボットのドラゴンです。実物大のプラットホームに、サドルのような仕組みを作り、人間を載せられるようにしました。ロボットドラゴンの頭や体が動くと、その動きが人間の動きにも連動することで、本当に生きたドラゴンに乗っているように見せることができましたね。さらに、ドラゴンに乗っての戦いなど、実写版を作るにあたっては、アクションシーンを体にズシッと響くような、迫力のあるものにしたいと思ったので、相当にいろいろなツールを導入しました」。

【写真を見る】ドラゴンに乗って飛んでいるような臨場感!
【写真を見る】ドラゴンに乗って飛んでいるような臨場感![c]2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

その完成度の高さは映像からも伝わってくる。特に巨大ドラゴンとの格闘のシーンでは、目が回るようなスピード感と、巨大ドラゴンのスケール感が迫力を生み出し、観客を手に汗握る緊張感へ引き込む。まるで、自分も追いつ追われつのチェイスに巻き込まれているような臨場感が味わえる。

もう一つ、実写版で変わった部分は、アニメーション版では強く感じられた宮崎駿監督の影響が薄まれていることだ。

「確かに僕は宮崎監督の大ファンです。アニメーション版では、ドラゴンのトゥースの描き方に『となりのトトロ』の影響が結構ありました。それは『ヒックとドラゴン』に限ったことではなく、『リロ&スティッチ』の時もトトロは大のお気に入りだから、参考にさせてもらっていました。

ただ、実写版を作るにあたっては、ドラゴンが本当に存在すると信じられるような、現実味のある雰囲気が必要だと思いました。だから、トトロ的な要素は少し抑えようと考えたんです。特にアニメーション版でのトゥースには、ちょっと擬人化しすぎていた部分があると思うんです。今回はもっと“動物”としての存在に寄せたいと考えました。そのため、大型のネコ科の動物、虎とかパンサーとかの動きを参考にしました。そうすることで、“これは本当に大型の動物なんだ”と感じてもらえるように作っていったんです」。

実写版のドラゴンの描き方は、大型のネコ科の動物も参考したという
実写版のドラゴンの描き方は、大型のネコ科の動物も参考したという[c]2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

かくして仕上がった実写版。続編2作品についても、実写化を視野に入れているそう。「いまは『ヒックとドラゴン』の第2弾の実写化話をし始めているところです(インタビューの5月時点。現在は2027年の公開予定作に名を連ねている)。まだ先のことなの断言できませんが、今回の映画が成功すれば次に進めると思います。なので、ぜひみなさんに応援していただけたらうれしいです」。


取材・文/横森文

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