実写版『ヒックとドラゴン』のこだわりをディーン・デュボア監督が明かす「キャラクターやストーリーの“魂”の部分を守りたい」
ドリームワークスを代表する傑作アニメーションの1本として知られる『ヒックとドラゴン』(10)。2010年に公開されて大ヒットを記録し、その年のアニー賞では長編アニメ映画賞、アニメ映画監督賞を含み、10部門で賞を獲得。その後、続編が2本制作されるなど、人気シリーズへと成長した。そんな傑作アニメーションが、オリジナルの世界観を大切しながら実写化された映画『ヒックとドラゴン』が公開中だ。6月23日時点で、日本に先駆けて公開された北米やほかの国・地域では、約3億5,973万ドル(約522億円)の興行収入を記録。なぜ世界中で大ヒットしたのか、なぜ実写版にしようと思ったのかを、アニメーション版が大好きな映画ライターが監督のディーン・デュボアに話を聞いた。
舞台は、何世代にもわたり人間とドラゴンの戦いが続くバーク島。バイキング一族の首長ストイック(ジェラルド・バトラー)を父に持つ少年ヒック(メイソン・テムズ)は、ある日、伝説のドラゴン、ナイト・フューリーと運命的に出会う。彼をトゥースと名づけ、周囲に秘密で交流を重ねるうちに、次第に友情が芽生えていく。やがてヒックは、人間とドラゴンが共生できる道を模索するが、そこに古代の脅威が立ちはだかり、未曾有の危機にさらされる…。
「ドラゴンと人間の“絆”が深まっていく様を、アニメーション版よりも臨場感あふれる形で残したい」
筆者は長編アニメーションとして作られた『ヒックとドラゴン』を観た時に大号泣した。そもそも異星人と地球人の少年の友情にスポットを当てた『E.T.』(82)に代表されるように、種を超えた友情ものは感情的にグッときやすい。それは自然という大きなもののなかで、生きることを尊び、敬い、助け合う。そういった行為が抗えぬ自然の厳しさのなかだからこそ、いわゆる“愛”というものがより際立って美しく、心に響くのだ。
『ヒックとドラゴン』も、まさにそんな“愛”に満ちあふれた作品だ。設定からしてずるい。なにしろドラゴンと人間は何世代にもわたって戦い続けている相手なのだ。憎むべき“敵”という設定。そんな逆風のなかで育まれる関係だからこそ、より“胸熱”なドラマになるというわけ。
アニメーション版も実写版も兼ねて演出したディーン・デュボア監督は、実写版をやると決めた時、一番大切にしたいと思ったのは原作がそもそも持っていた「ストーリーと魂の部分」だったという。
「感情や、驚きの部分をできるだけキープしておきたいと思いました。そしてまたドラゴンと人間の関係において、いわゆる“絆”というものが深まっていく様を、アニメーション版よりも臨場感あふれる形で残したいと思ったんです。やはり映画というのは、現実逃避できる娯楽作品としての魅力が強い。だから願いが叶えられていること、人間と動物の絆がこんなふうに深められるということを見せるのはとても大事なんです。また相手について教えられてきたこと、今回ならば人間にとってドラゴンは敵であり憎むべき存在だと教えられてきたわけですが、本当にそうなのかを自分なりに考えることの大切さ、相手に対して思いやりを持つということの重要さが、もともとの原作に描かれていたものなんです。なのでそこにある感情とか驚きの気持ちを実写版にしてみたいと思ったんです」。
それにしてもアニメーション版自体が、そういった原作の持ち味を余すところなく伝えた、魅力あふれる作品だったのに、なぜあえて再度実写版にトライしようと思ったのだろうか。
「正直に言えば、自分から積極的に実写版を作りたいと主張したわけではないんです。ユニバーサル・スタジオが僕に『実写版を作りたいか?』って聞いてきました(笑)。でも、最初の私の答えはとても守りに入ったものだったんです。キャラクターやストーリーの“魂”の部分を守りたいから、本気で実写化をするのならば、自分が脚本を書いて監督もしたいと答えたんです」。