チョ・ジョンソクが振り返る『大統領暗殺裁判 16日間の真実』でのイ・ソンギュンとの共演「僕たちの関係が演技に重なっていた瞬間があった」
韓国で“믿보배=信じて観る俳優”という言葉がある。「出演しているだけで作品のクオリティが保証される俳優」という意味だ。その代表格の一人が、チョ・ジョンソクだ。
ドラマ「賢い医師生活」のようなヒューマンドラマから、ラブコメ、サスペンスまで幅広い作品をこなし、常に観客を惹きつけてきた彼が、韓国近現代史の暗部に切り込む法廷劇に挑んだ。『大統領暗殺裁判 16日間の真実』(公開中)で扮するのは、勝つためには手段を選ばない冷徹な弁護士チョン・インフ。歴史と正義を問う物語にどう飛び込んだのか。撮影に臨んだ思い、本作が最期の出演作となった故イ・ソンギュンとの共演、そして俳優人生のいまについて、MOVIE WALKER PRESS KOREAの取材にストレートに語った。
「シリアスな作品のなかで、いかにウィットを効かせるかを意識しました」
舞台は1979年。10月26日、中央情報部長が大統領を暗殺するシーンで幕を開ける。映画『KCIA 南山の部長たち』(20)などでも描かれたパク・チョンヒ大統領暗殺事件。だが、本作がフォーカスしたのは、歴史に名を残す人物ではなく、中央情報部長の随行秘書官だ。上官の指示で事件に巻き込まれた彼は暗殺の罪に問われ、裁判にかけられる。この政治的な大事件で名を売りたいという思惑から弁護に名乗りを上げるのが、チョ・ジョンソク演じるチョン・インフだ。
「勝利至上主義者で、法廷バトルにおける“喧嘩上等”の第一人者ですよね」。チョン・インフについて、チョ・ジョンソクはこう分析する。「すごく個人主義的な人物だと感じました。そんな人物が、不当な裁判にかけられた軍人パク・テジュに出会う。現役軍人であったゆえに単審制が適用され、一度死刑が確定すれば覆すことができない。彼を本気で救うために、だんだんと内面的に変わっていくところに惹かれました」。
登場する多くが実在の人物を色濃くモチーフにするなかで、チョン・インフのキャラクターは、当時の裁判記録や裁判に参加した人物から着想を得て創造された架空の存在だ。年齢や家族関係、彼にまつわるエピソードまで、ほとんどが映画的な想像力で構成されている。役作りにおいては監督との綿密な対話が鍵を握った。重厚なテーマをいかに観客に伝えるか、そのバランスを常に考えていたという。
「架空の人物であるぶん、僕自身がより多くの想像力を働かせることができました。様々な試みや挑戦も自由にでき、表現の幅も広げることができたと思います。でも、なにより大事だったのは、観客がこの作品を観たときどう感じるかという点でした。とても重厚な作品ではあるんですが、あまりにも深く掘り下げすぎると映画そのものが少し退屈に感じられるかもしれない。そういう危うさも監督と僕のあいだで自然と共有されていたのです」。
観客がチョン・インフという人物を通じて物語により深く入り込めるように、大事にしたのは「チョ・ジョンソクらしさ」だった。
「チョン・インフを演じるのは、チョ・ジョンソクという俳優ですから。僕自身が持っているちょっとしたユーモアや人間味のある部分、そういった面もにじませながらキャラクターに溶け込ませたいと思いました。僕はアドリブを多用するように見えると言われることもありますが、実はシナリオに忠実に演じるほうです。与えられたセリフの持ち味を最大限に活かすためにはどうするか。シリアスな作品の中で、いかにウィットを効かせるかをすごく意識しました」。