「好きなことを貫いていればそれが自信になる」井手上漠が『不思議の国でアリスと』で感じた自分との向き合い方
「自分を否定していた過去もそれはそれで自分らしい姿」
本作は、りせが自分らしさを取り戻し、枠に囚われない生き方に気づく物語でもある。一方で、「“自分らしさ”という言葉が先行して、自分らしさとはなんなのかという問いに心が追いつかない人が多いとも思っています」と井手上は説明し、この言葉が逆に現代的ではないのでは?と疑問も抱いているそうで、「どんな時も自分らしいのではないか」と続ける。
そして、「過去に自分を否定していた時代も、それはそれで自分らしい姿なのだと思います。その時があるからいまがある。自分らしさよりも、好きなことを好きでい続けることの大切さに気づかされました。どの瞬間を切り取っても、それが自分自身なのだと再確認できたんです」と説明。今回の物語を通して井手上は、“自分らしさ”に対する新たな解釈も見いだしていたようだ。
「コンプレックスこそが武器。一度向き合ってみることが大事なんじゃないかと思う」
社会に出ると、自分にしかない強みや、周りより優れていることを求められ、りせと同じように悩んでいる人も多いだろう。しかし井手上は、「自分が抱いているコンプレックスこそが武器になる」と自身の経験を踏まえて話す。「性別や見た目、性格など、人と違う部分をコンプレックスに捉えがちですが、それは自分にしかない唯一のもの。『コンプレックスは才能の裏返し』という言葉を聞いて、私は自分のコンプレックスを大切にするようになりました。私もマイノリティという性別を武器に、ありがたいことにたくさんのお仕事をいただいています。だからこそ、みなさんも抱えているコンプレックスに一度ちゃんと向き合ってみることが大事なんじゃないかなと思います」。
コンプレックスと向き合うことは決して楽なことではない。それを乗り越えるには「様々な価値観に触れて、視野を広げることが大切だ」と井手上は力強く語る。「私は離島出身で、限られた、狭い価値観のなかで過ごしてきました。そんななかでも、私はスピーチを見ることが好きだったので、社長になった方の話など、様々な経験をしてきた人たちのスピーチを聞いて、いろんな価値観に触れました」。スピーチを通して世界には様々な価値観があることに気づけたことで、「このコンプレックスは日本だけだったんだ。日本だとマイノリティだけど、ほかの国では成功の道があるかも」と視野が広がっていったという。
最後に、りせのように悩める若者へ向けて、井手上から温かいメッセージが送られた。「“自分らしさ”を追い求めるのではなく、まずは自分の“好きなこと”を大切にしてみてください。そして、それを好きだと言える勇気を持つことが大事だと思います。人間は好きなことを貫いていれば、必ずそれが自信となり、自分を肯定できるようになるはずですから」。
誰もが覚えのある悩みや感情の揺れ動きが描かれている『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』。井手上漠が語った言葉を胸に、りせやアリスと一緒にワンダーランドを冒険してほしい。
取材・文/阿部裕華(コーク)