『ターミネーター2』、『ジュラシック・パーク』にもつながるCGの革新性!時代を先取りした『トロン』はなにがすごかったのか?

コラム

『ターミネーター2』、『ジュラシック・パーク』にもつながるCGの革新性!時代を先取りした『トロン』はなにがすごかったのか?

1982年に公開された映画『トロン』は、ハイコンセプトなエレクトロニクス設定を有した、サイバーパンクの嚆矢と呼べるものだ。自分のビデオゲーム・プログラムを盗用した証拠を掴もうと、巨大通信企業エンコム社に潜入した天才プログラマーのケヴィン・フリン(ジェフ・ブリッジス)。だが彼は、ハッキングの過程でコンピュータ内部の世界に取り込まれてしまう。そこでフリンを待ち受けていたのは、邪悪なMCP(総合制御システム)とその支配下で繰り広げられる生死を懸けたゲームだった。未知の世界で監視プログラムのトロン(ブルース・ボックスライトナー)と手を組んだフリンは、大胆な計画でMCPに挑み、現実世界への帰還を目指す。

ライバルが自身のプログラムを盗んだことを証明しようとする優秀なプログラマーのケヴィン・フリン(『トロン』)
ライバルが自身のプログラムを盗んだことを証明しようとする優秀なプログラマーのケヴィン・フリン(『トロン』)[c]Everett Collection/AFLO

4つのCGスタジオによって作り上げられた『トロン』のデジタル空間

映画はこうした内容上、CG(コンピュータグラフィックス)を多用し、それは商業長編映画において初の試みとして認識されている。CG映像は全編96分のうち約17分間を占め、特殊効果は当時最大となる1,100ショットが生みだされ、うち800が実写と組み合わせた合成ショットにあたる。

邪悪なMCPによって支配されていたデジタル世界(『トロン』)
邪悪なMCPによって支配されていたデジタル世界(『トロン』)[c]Everett Collection/AFLO

映画に登場する電脳世界のキャラクターはすべて光学的な手法で作成され、彼らが住む世界の多くはCGによって生成。当時、映画解像度のコンピュータ画像を制作できるアメリカのスタジオはごくわずかで、製作のディズニーはそのなかから4つの外注グループを選び、『トロン』のCG制作が依頼されている。

また、市販のグラフィックスハードウェアやソフトウェアパッケージが入手できなかったため、ほとんどのCGスタジオは、使用する技術や制作できる画像において大きく異なっていた。そのため、4社にはそれぞれの制作能力に最も適した仕事が割り充てられることになった。

MCPの支配下で生死を懸けたゲームが繰り広げられる(『トロン』)
MCPの支配下で生死を懸けたゲームが繰り広げられる(『トロン』)[c]Everett Collection/AFLO

画像を点とそれらを結ぶ線や曲線で表現するベクターグラフィックス(124ビット未満)を使用し、映画のタイトルシーケンスとフリンが初めてコンピュータの世界に入るシーンはロバート・エイブル・アンド・アソシエイツが担当。デジタル・エフェクツ社は「ザ・ビット」と呼ばれる擬人化キャラクターと映画冒頭の短いCGシーケンスを制作した。トリプル・アイとMAGIは、本作で最も印象的なライトサイクル・シーケンスを含むラスター(ピクセル集合体で構成される形式の画像)を提供している。

ケヴィンの同僚アランが開発したプログラム、トロン(『トロン』)
ケヴィンの同僚アランが開発したプログラム、トロン(『トロン』)[c]Everett Collection/AFLO

ブロック模型のような方法で作成されたライトサイクル

MAGIは映画の担当部分に必要な3Dモデルを作成するため、「プリミティブ」と呼ばれる一連の均一な幾何学的形状を作成。同社が作成したライトサイクルは、これらのプリミティブを交差させて物体の本体を組み立てるという、ブロック模型作りのような方法で作成された。

一方、トリプル・アイはアニメーション部分のモデルを作成するために、物体の詳細な設計図を作成したあと、それをデジタル変換テーブルに貼り付け、十字線ファインダ付きの初期マウスデバイスを使用して各トップの位置を記録した。このエンコード情報を用いて、コンピュータは3Dモデルを構築することができたのだ。

【写真を見る】『トロン』にて初登場し、シリーズを代表するアクションの一つとなったライトサイクル
【写真を見る】『トロン』にて初登場し、シリーズを代表するアクションの一つとなったライトサイクル[c]Everett Collection/AFLO

CG映像は特別高解像度のビデオ・スクリーン上で作成されたが、1フレームにつき4,800万ビットもの情報が必要とされ、最も複雑なフレームの作成には6時間もかかったという。そういう演算レベルと処理速度の時代だったのである。

全編96分のうち約17分間を占めるCG映像(『トロン』)
全編96分のうち約17分間を占めるCG映像(『トロン』)[c]Everett Collection/AFLO


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