大人気中国アニメの続編『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』ついに公開!異例の大ヒットを果たした「羅小黒戦記」はなぜ日本人にも刺さったのか?
2020年に花澤香菜、宮野真守、櫻井孝宏の豪華キャストによる日本語吹替版が公開され、多くのファンを生みだした中国アニメーションの傑作『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』。その待望の続編『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』が、丸5年の歳月を経て、11月7日より公開となった。
愛くるしい黒猫の妖精シャオヘイ(声:花澤)と、“最強の執行人”と呼ばれるミステリアスな人間、ムゲン(声:宮野)が繰り広げる冒険ファンタジーは、なぜこれほど観客の心を惹きつけるのか。本稿では、新作公開にあわせたおさらいとして、「羅小黒戦記」誕生の経緯や前作の物語を振り返りながら、本シリーズの魅力を紹介したい。
口コミで人気上昇!日本でも根強い人気を獲得
「羅小黒戦記」は、中国のアニメ監督、木頭(MTJJ)と彼が代表を務めるアニメ制作会社“寒木春華(HMCH)”スタジオが制作したWEBアニメシリーズが原点。2011年3月に動画サイトで初公開されたWEB版ショートアニメの第1話は、木頭監督がたった一人で半年かけて完成させたものだ。黒猫の妖精シャオヘイを主人公に、妖精と人間が共存する不思議な世界を描いたこの作品は、シャオヘイのキュートなSNS用スタンプの流行と共に、じわじわと人気上昇。これまでにシリーズ通して40話が制作され、中国発の動画配信プラットフォームbilibiliにおける総視聴回数は7億回を突破。現在も不定期で更新中だ。日本でも今年10月からWEB版をテレビサイズに編集した日本語吹替版の放送がスタートしている。
そのWEBアニメシリーズの劇場版として、2019年9月に中国全土で公開されたのが同タイトルの『羅小黒戦記』である。MTJJ監督と同世代の若手スタッフ50人ほどの少人数で制作したこの映画は、中国国内での興行収入3.15億人民元(当時のレートで約49億円)のヒットを記録。また中国公開と同時期、おもに日本在住の中国人をターゲットに簡単な日本語字幕を付けたバージョンを国内のミニシアター数か所で公開したところ、瞬く間にSNSで評判が広がり、各上映の1週間前にはほぼ日本人による予約で満席になってしまうという想定外の事態が発生。この人気を受けて、翌年にアニプレックス制作、配給で豪華声優陣による日本語吹替版の全国公開が決まり、半年に及ぶロングラン上映となった。
前作『羅小黒戦記』の物語はWEBアニメシリーズよりも4年前、6歳の時のシャオヘイの冒険を描く前日譚。いわばエピソードゼロにあたるので、WEBアニメをまったく知らない人が観ても楽しめる作品になっている。舞台は近代化が急速に進んだ現代の中国。森を人間に開発されて居場所を失った黒猫の妖精シャオヘイと、人間のエゴを許すことができない妖精フーシー(声:櫻井)、そして人と妖精の共存を願い、両者の間に立とうとする人間ムゲンとの予期せぬ出会いと激しい戦いが描かれていく。
自然破壊の問題や、異なる価値観や文化を持つ者たちがどのように共存していくかという普遍的なテーマを縦軸に、シャオヘイが本当の居場所を見つけるまでの精神的な成長を横軸にしたドラマチックで重層的なストーリー。最初は人間であるムゲンのことを妖精の敵とみなし強い反発を見せていたシャオヘイが、ムゲンと一緒に長い旅を続けるうちに彼を少しずつ信頼していく過程には、世界中で様々な対立や争いが起こっているいまだからこそ胸に刺さる大切なメッセージが込められている。たった一人で必死に生きてきた孤独な幼子のシャオヘイが、ついにはムゲンを最高の“師匠”と認め、ずっとそばにいたいと心から願うようになる展開は何度観ても泣けてしまう。
キャラ造形やそれぞれの能力など見どころポイント満載
シャオヘイとムゲンをはじめ、チャーミングなキャラクターたちの細やかな描写も本作の大きな魅力の一つ。まずはなんといっても主人公のシャオヘイのかわいらしさ。花澤の透明感のある優しい声は、無邪気でまっすぐなシャオヘイのイメージにぴったりだ。妖精は人間の姿にもなることができるという設定で、シャオヘイの場合は黒い子猫と人間の子どもの姿の2形態。どちらの姿も小さくて、丸っこくて、思わず守ってあげたくなる。食べることが大好きで、おいしそうなものを見ると目がキラーンと光るところもかわいい。
一方のムゲンは、妖精を支援するための組織“館”に所属する執行人。不穏な動きをする妖精たちを法に基づいて捕え、拘束するのが任務だ。人間でありながら“最強の執行人”として恐れられる彼は、自身が一部の妖精たちから疎まれていることは認識している。常に冷静沈着、齢何百歳ともいわれる人間離れした存在だが、肉もまともに焼けないほど料理が下手だったり、スマホを水没させたりと、見た目に似合わずポンコツな面があるギャップも人気の理由。ムゲンのクールなイケメンぶりと愛すべき天然っぽさの両方を表現する宮野の繊細な演技もハマっている。
『羅小黒戦記』のバトルアクションを存分に楽しむために押さえておきたい大事なポイントは、妖精は生来、自身の霊の属性に基づいた特別な能力を持っていて、修行をすることでその能力を使いこなせるようになるという設定。人間も修行によって、能力を得ることが可能だ。いくつもの異なる種類の能力があるなか、シャオヘイとムゲンが偶然にも“御霊系・金”と“空間系”という同じ系統の能力を持っていたのも運命的だった。
ちなみに金属性は腕につけた手甲など周囲にある金属を自在に操って戦うことができる能力。またムゲンの“空間系・己界”の能力は、外部の物体を瞬時に自分の霊域(生命力と能力の源となる異次元空間)に飲み込むことができるのに対し、シャオヘイの“空間系・領界”の能力は自分の霊域を外部に向けて広げることができる。加えて、シャオヘイは例外的にもう一つ、“空間系・転送(テレポート)”の能力も持つ。前作のクライマックスで、シャオヘイとムゲンがこれらの能力を駆使しながら共闘したアクションシーンは最高にかっこよかった。
そのほかにも、様々な能力、個性を備えたキャラクターたちが多数登場。出演シーンが少ないキャラクターであっても、一人一人に深掘りしたくなるほどのバックボーンがちゃんと用意されているため、作品の世界観に奥行きがあるのが特徴だ。
