俊英クリエイターの演出や脚本、ヒロイン、主題歌…公開から20年を経た『NANA』『リンダ リンダ リンダ』『サマータイムマシン・ブルース』『亀は意外と速く泳ぐ』はなぜ今も心に響くのか?

俊英クリエイターの演出や脚本、ヒロイン、主題歌…公開から20年を経た『NANA』『リンダ リンダ リンダ』『サマータイムマシン・ブルース』『亀は意外と速く泳ぐ』はなぜ今も心に響くのか?

三木聡が描く奇想天外なスパイコメディ『亀は意外と速く泳ぐ』

『亀は意外と速く泳ぐ』デジタルリマスター版はテアトル新宿ほかで上映中
『亀は意外と速く泳ぐ』デジタルリマスター版はテアトル新宿ほかで上映中

さて、上野樹里はすでに、東北の片田舎の女子高生たちがビックバンドジャズに挑む『スウィングガールズ』(04/監督:矢口史靖)の主役で一頭地を抜く存在に。で、2005年は『サマータイムマシン・ブルース』の前に、三木聡監督が“平凡”をモチーフにして、笑いとポップセンスを絶妙にデザインした『亀は意外と速く泳ぐ』に主演していた。こちらもデジタルリマスター版が公開されている。

リズムカルなモノローグからして絶品。何をやっても目立たぬ平凡な主婦、片倉スズメが小っちゃい“スパイ募集”の貼り紙をトンデモない場所に発見して、面接を受けるや採用される。でも任務は「目立たないように招集の日まで静かに暮らすこと」――そんな前代未聞のヒロイン像を可愛くまとい、最後には不思議な哀愁さえにじませた。一方、共演の蒼井優はスズメと同じ日、同じ病院で生まれ、対照的にド派手なキャラクターの幼なじみ、扇谷クジャク役でブッ飛びまくる。

本作で初共演し、翌2006年の『虹の女神 Rainbow Song』では姉妹を演じた上野樹里と蒼井優
本作で初共演し、翌2006年の『虹の女神 Rainbow Song』では姉妹を演じた上野樹里と蒼井優

脚本も手掛けた三木聡は放送作家出身で、コント仕立ての舞台「シティーボーイズライブ」の専属演出家としても知られ、2000年の「ウルトラシオシオハイミナール」で上映された短編「まぬけの殻」が厳密にいえば映画デビュー作だ。2005年は先立って『イン・ザ・プール』があったものの、初の長編は『ダメジン』(撮影は02年だったが諸事情で寝かされて06年公開)だったりする。妄想タイムマシンネタは、「孤独のグルメ」シリーズの松重豊が“そこそこラーメン”の店主役でいい味を出していることか。小ネタ満載、独特なゆるいテンポとオフビートな笑いで“脱力系”と呼ばれたが、実は「脱臼系」であり、要は自由を志向する「解脱系」。スパイをこんなふうな角度で扱える人は他にはいない。

日本でのペ・ドゥナの人気を決定づけた『リンダ リンダ リンダ』

『リンダ リンダ リンダ 4K』は8月22日(金)より新宿ピカデリー、渋谷シネクイントほか全国ロードショー
『リンダ リンダ リンダ 4K』は8月22日(金)より新宿ピカデリー、渋谷シネクイントほか全国ロードショー[c]「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

8月の3本目、22日から上映スタートする『リンダ リンダ リンダ 4K』は、山下敦弘監督が韓国映画『ほえる犬は噛まない』(00)を観て、主演のペ・ドゥナにのめり込み、その監督ポン・ジュノ監督との交流から彼女を紹介されて成立した企画である。地方の高校生役、前田亜季(ドラムス)、香椎由宇(ギター)、関根史織(Base Ball Bear同様、もちろんベース!)の3人が最後の文化祭前に、ペ・ドゥナ演ずる韓国人留学生を引き入れ、無理やりボーカルに据えた即席バンドでザ・ブルーハーツをコピーしようとする。つまりは試行錯誤する彼女たちの数日間の記録――。

「ポン・ジュノが教えてくれる映画にはハズレがない! 山下さんの作品もそうでした。ポン・ジュノと山下監督、いや私たちって、どこか通じ合う感覚があるんだと思います」と、プロモーション時にじかに会えたペ・ドゥナはそう言った。それまでの山下監督は“男どものグダグダ話”が持ち味だったのだが、女の子たちに同じことをやってもらったら似てるけれども違った感触に。色褪せない楽曲の強さもあった。キャリア的にはインディペンデントから飛翔した“第2のデビュー作”となった。

『リンダ リンダ リンダ』撮影当時の山下敦弘監督
『リンダ リンダ リンダ』撮影当時の山下敦弘監督[c]「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

本作は「映画芸術」の2005年邦画ベストランキングで1位を獲得しており、同じく映画雑誌「キネマ旬報」による日本映画ベスト・テンで6位、読者選出日本映画ベスト・テンでは3位に。妄想タイムマシンネタは…もう、いいだろう。それより4作とも、エンディングテーマ曲が映画にピッタリなことを力説したい。『NANA』は中島美嘉の「GLAMOROUS SKY」。『サマータイムマシン・ブルース』はTommy heavenly6の「LCDD」。『亀は意外と速く泳ぐ』はレミオロメンの「南風」。そして『リンダ リンダ リンダ』はザ・ブルーハーツの「終わらない歌」。

8月21日、23日には来日するペ・ドゥナも含めたキャストと山下監督が登壇する公開記念イベントも開催!
8月21日、23日には来日するペ・ドゥナも含めたキャストと山下監督が登壇する公開記念イベントも開催![c]「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

「終わらない歌」はご存知の通り、「クソッタレの世界」「全てのクズ共」「僕や君や彼ら」、さらには「明日には笑えるように」するために、「終わらない歌」を歌おうと呼びかける。時代を超えるタイムマシンのような映画もまた、そんなふうにNever-endingな何か、なのかもしれない。


文/轟夕起夫

宮崎あおいの「崎」は「たつさき」が正式表記

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