現在のモキュメンタリーブームの先駆けとなる存在?白石晃士監督の『ノロイ』が傑作たる理由
怖いけど、どこか笑ってしまうヤバいキャラクターたち
『ノロイ』の大きな特徴は、そんな様々な形態の映像、ジャンルをも横断しながら、その一つ一つが、エンタテインメントとして機能しているという点である。
取材を試みようとする小林に対し、「なんでそんな言い方ができるんだよ!言い方ァ!」と謎の圧力をかける不気味な女性の登場に始まり、空のフラスコに人毛を生成させる凄まじい能力を持ったサイキック少女、全身をアルミホイルで覆って「霊体ミミズ」なるものからの脅威を主張する危うげな霊能者の存在など、多様なキャラクターが次々と現れる。このようにホラーとして提出されているにもかかわらず、絶えず観客を楽しませようとするアイデアや、時に笑ってしまうユーモアに満ちているのだ。
そんな白石監督のサービス精神は、その後のビデオ作品「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズや『貞子vs伽椰子』(16)、『サユリ』(24)などにも共通する。「コワすぎ!」では、超スピードで動きまくるカッパを破天荒なディレクター工藤(大迫茂生)がカウンターパンチでノックダウンさせてしまうように、通常ならミステリアスに表現される怪異をはっきりと映しだし、人間の社会と同じステージで描くところがおもしろい。
人間の根源的恐怖と狂気に触れることができる“奥行き”ある表現
だが、白石監督の提供するホラーがユーモアで終わらないのは、観客の恐怖を喚起させるシーンが、“本当に怖い”という点にあるだろう。その一端を担っているのは、確かな設定に裏打ちされた、人間描写にもあるのだ。
『ノロイ』で表現された呪術的な家の“禍々しさ”が、『近畿地方のある場所について』に収められている「首吊り屋敷」の光景としてパワーアップした形で提示されるのには、感動すら覚える。そこには、それを作りだした人間の存在と狂気という“奥行き”が表現されている。
だからこそ、怖い。そして、そこにわれわれ観客はついつい引き込まれ、異様な場所へと誘われていくのだ。
文/小野寺系