家族の絆で地球規模の脅威に立ち向かう!1960年代が重要な意味を持つ『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』を解説
宇宙の破壊神ギャラクタスが地球に襲来!
長くなったが、こうした背景を踏まえながら改めて『ファンタスティック4』全体を振り返っていきたい。本作では幾度も地球を救ってきたファンタスティック4が、それまで目の当たりにしてきた脅威とは次元が異なる、阻止不可能な強大な敵に立ち向かわなければならなくなる。
強大な敵とは、惑星を自身の食料としている宇宙の破壊神ギャラクタス(ラルフ・アイネソン)。ギャラクタスの使者として現れたシルバーサーファー(ジュリア・ガーナー)により、地球が次の標的になっていることを告げられた4人は、故郷と多くの命を守るためにすぐさま行動を開始する。
ギャラクタスの地球への襲来は、原作「ファンタスティック・フォー」を代表する名エピソードなのだが、身の丈数百メートルという巨大な破壊神が生身で地球に降り立つという描写は、やはりどこか荒唐無稽で古臭くも映ってしまう。そんな懸念をよそに、本作ではギャラクタスの原作におけるイメージを維持しながらも、まるで巨大なビルが生物として動いているように描くことに成功。レトロフューチャーな世界観との相性もよく、この迫力ある映像こそが映画を成功へと導いていると言えるだろう。
地球全体の脅威と家族が直面する一大事を一つにまとめ上げる
また、キャラクタードラマをより深く描くためのアレンジも加えられている。原作ではホームドラマ的なエピソードを積み重ねることで、リードとインビジブル・ウーマンことスー・ストームの関係性の変化、結婚や妊娠、出産を経ながら一つの家族になっていく様子が大きなイベントとして扱われてきた。
しかし本作では、そうした関係性が移り変わる様子は描かず、リードとスーがすでに結婚しており、物語冒頭でスーの妊娠がわかるという描写からスタート。家族にとっての一大事が最初の事件であり、そして物語の主軸となって進行していく。
リードとスーの息子フランクリンの誕生もまた原作における重要エピソードなのだが、ギャラクタス襲来よりもずっとあとの出来事になっている。しかし、本作では独自のアレンジとして、ギャラクタスの襲来とフランクリンの誕生をリンクさせることで、地球全体の脅威と家族の一大事を一つの要素としてまとめた物語になっていた。
惑星を食べ続けなければ生命活動を続けられないギャラクタスが、自身との交渉に訪れたファンタスティック4と対峙した際、スーのお腹の中に彼の飢えを解消する能力を持った赤子がいることに気付き、子どもを差し出せば地球を破壊しないという条件を提示する。生まれてくる新しい命と地球の命運を天秤にかけることになった4人は、当然ながら人類を救い、さらに家族も守るという道を選ぶ。
スー・ストームの強さ、聡明さが世界を一つに
この展開は、宇宙規模の敵との戦いを家族に降りかかった災難と結びつけ、まさに「ファンタスティック4」だからこそできる物語として昇華していったと言える。そして、この攻防の中心となるのが、妻であり母でもあるスーの活躍だ。
原作においてもスーは、その実直さと優しさ、そして交渉能力の高さでヴィランからも一目置かれる存在感を発揮しているのだが、本作ではそこに母としての精神的な強さが加わっている。地球を救うためにフランクリンをギャラクタスに差し出せという世論が高まるなか、彼女の言葉によって人々は共に手を取る道を選び、世界が一つになって地球を救うために協力する。それはまさに、前述した世界情勢が不安定だった60年代において平和を望む人々が夢想した理想の社会と言えるだろう。
また、ギャラクタスに対抗するために開発されたギミックや発想には、懐かしの空想科学的な雰囲気が漂っている。そのうえで、これもまたしっかりと構築されたレトロフューチャー感がうまいクッションとなっているおかげですんなりと受け入れることができるので、観客も解決不可能と思えた壮大なクライマックスへとぐんぐん引き込まれていくのだ。