家族の絆で地球規模の脅威に立ち向かう!1960年代が重要な意味を持つ『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』を解説
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の最新作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』が大ヒット公開中。ミスター・ファンタスティック(ペドロ・パスカル)、インビジブル・ウーマン(ヴァネッサ・カービー)、ヒューマン・トーチ(ジョセフ・クイン)、ザ・シング(エボン・モス=バクラック)らで構成されるヒーローチーム「ファンタスティック4」の物語は、原典マーベル・コミックスにおいて複数のヒーローが共存する世界観を描き始めるきっかけでもあった。そんなエポックメイキングな作品が満を持して新たに映像化。本作はどのような部分に注目して観るべきなのか?ネタバレありで解説していきたい。
※本記事はネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)に該当する要素を含みます。未見の方はご注意ください。
これまでのMCUとは異なるマルチバース、時間軸が舞台に
『ファンタスティック4』はMCU最新作ではあるものの、これまでのシリーズとはちょっと違う特殊な設定で物語が構築されている。まずはその基本設定について押さえておきたい。
一つはマルチバースにおけるポジション。現在のMCUは「マルチバース・サーガ」を展開しており、アベンジャーズが存在している正統時間軸は「アース616」と呼ばれている。これまでも『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(21)や『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(22)、ドラマ「ロキ」などでマルチバースの存在が示され、『デッドプール&ウルヴァリン』(24)では「アース10005」という別の時間軸が舞台となった。
『ファンタスティック4』もそれに倣う形で「アース828」という時間軸が舞台に据えられており、これまでのMCU作品とは連動していない独立した物語となっている。つまり、新たなヒーローチームの活躍を新たな時間軸で描くことで、過去のMCUのことは気にせず、純粋にこの作品だけを楽しむことができるようになっているのだ。
60年代を舞台にした大きな意味
さらに注目すべきは劇中の年代設定。『ファンタスティック4』の設定年代は1965年となっており、いまから60年前の過去の出来事となっている。
様々な時代が登場するのは、複数の時間軸が存在する「マルチバース・サーガ」ではさほど特殊なことではないが、劇中のマルチバースの時代が過去に設定されているのは本作が初めてだ。そして、この“1965年”という年代には実は大きな意味がある。
物語冒頭でファンタスティック4がアース828においてどのように誕生し、活動開始からすでに4年が経過していることも示される。つまり、チームの結成は1961年。この年は原作コミックス「ファンタスティック・フォー」がスタートした年であり、あえて時代設定をそこに合わせていることがわかる。
60年代といえば、アメリカでは人類を月へ送るアポロ計画が進められ、目覚ましく発展する科学技術が未来の人類の生活をよりよいものにしていくのではないかと期待された時代だった。原作でのミスター・ファンタスティックことリード・リチャーズが生みだす発明品の数々は、そうした明るい未来への希望が形となったものでもある。
一方でこの時代は、そうした夢想からはかけ離れ、世界情勢的に混乱を極めてもいた。世界は米ソを中心に東西に別れた冷戦の真っ只中であり、世界各地に核兵器配備が進められ、いつ核戦争が起きてもおかしくないような軍事的な緊張感に包まれていた。また、当時のアメリカは1955年から始まったベトナム戦争も継続中であり、戦場を伝える残酷なニュースが日々流れ、世界的な平和が強く望まれる時代でもあった。
本作におけるアース828は、科学技術の発展とファンタスティック4の登場をきっかけに国家間の戦争などがなくなりつつある平和な世界が実現されており、原作コミックスが始まった当時に望まれながらも、到来しなかったレトロフューチャー的な価値観が反映されている。そしてこの世界観こそが、ファンタスティック4といういまではちょっとクラシカルになってしまったヒーローチームが活躍する舞台として間違いなくフィットしているのだ。
家族の絆が宇宙規模の危機に立ち向かう大きな原動力
こうした背景を踏まえてさらに押さえておきたいポイントとなるのが、ファンタスティック4が持つほかのヒーローチームにはなかった特性、“ファミリー=家族”という要素だ。
本作におけるファンタスティック4は地球規模の事件を次々と解決し、人々から絶大な信頼を得ているセレブ的ヒーローチームであり、ファミリーとしても強い絆で結ばれている。これは原作とも共通しており、彼らの仲間意識を超えた家族としての絆こそが、宇宙規模の危機に対抗できる大きな原動力となっている。また、60年代ホームドラマを思わせる家族観も描かれ、4人それぞれが抱える悩みや葛藤に共感できるところもファンタスティック4が支持される所以だった。
この家族要素、空想科学的SF要素の組み合わせが「ファンタスティック4」の真骨頂。見方によっては、こうした表現は古臭さを感じさせてしまうものでもある。しかし本作では、現在の観客が観ても違和感なく捉えられるように、夢と希望、科学技術がもたらす理想社会が混在したクラシカルな独自の世界観を周到に練り上げ、構築したことがスクリーンからも伝わってくるのだ。