胸アツな3つの戦いが描かれるアッという間の2時間半!ファンの期待を超えた『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』
見事な連携で猗窩座に立ち向かう炭治郎&義勇
そして、「こんな2人が観たかったんだ!」と胸が熱くなるのが、第一章のタイトルロールにもなっている猗窩座と対戦する炭治郎&義勇の共闘である。2人が共に鬼に立ち向かうのは那田蜘蛛山での戦闘以来。当時は圧倒的な力の差で、水柱の義勇が炭治郎の危機を救ったが、本作では炭治郎も猗窩座と互角に戦い、義勇にただ守られるだけでなく、要所要所で彼の危機も救う正真正銘の共闘を見せる。その目を見張る成長ぶりに、義勇が炭治郎と初めて会った時のことを回想するシーンがしみじみと感慨深い。
同じ水の呼吸の技を繰りだしながら見事な連携を取る彼らの戦闘シーンで際立つのは、激しい水流の描写の美しさ。猗窩座との熾烈な戦いの末に起こる義勇の体の変化や、炭治郎が亡き父との見取り稽古の記憶から到達した「透き通る世界」の境地など、インパクトの強いシーンの連続で、一瞬たりとも目が離せない。
猗窩座の悲しすぎる境遇も丁寧に掘り下げる
本作で描かれる3つの戦いの敵はすべて、それぞれの隊士たちにとって、自分が戦う意味の大きい因縁の相手である。「無限列車編」以来の登場となる猗窩座は、炭治郎が敬愛する炎柱の煉獄杏寿郎(声:日野聡)を殺した鬼。敵側の視点の物語もしっかりと描くのが「鬼滅の刃」の特徴だが、特に今回、猗窩座が人間だった頃の人生も丁寧に掘り下げられていて、彼の健気さ、悲しすぎる境遇に泣けてくる。シリーズ全体を通しても、猗窩座は鬼になった経緯を含め、同情せずにはいられない特別な鬼の一人だ。
託されたものをつないでいくというテーマ
さらに、亡くなった先代、産屋敷耀哉(声:森川智之)の長男で、現当主となった幼い輝利哉(声:悠木碧)が、残された2人の妹と共に、愈史郎の協力による血鬼術の“紙眼”の札と鎹鴉からの情報で視覚を共有し、無限城の見取り図を作成していくシーンもグッとくる。小さな子どもたちが、父、母、姉たちを亡くしたばかりの悲しみをこらえ、先代の遺志を必死に継ごうとする姿もまた戦いであり、託されたものをつないでいくというテーマを象徴している。
もちろん、ほかにも多くのキャラクターが登場し、短いシーンのなかでも細やかな演出によって、それぞれの心情がきちんと描かれるなど、まさに全編見どころだらけで上映時間2時間半超えの長尺があっという間に感じてしまう。胸を揺さぶる声優陣のエモーショナルな演技、1シーン、1シーンの隅々にまで制作スタッフの情熱と美意識が注がれた本作は、きっと観るたびに新しい発見と感動を与えてくれるはずだ。
文/石塚圭子
※煉獄杏寿郎の「煉」の漢字は「火+東」が正式表記
※鬼舞辻の「辻」の部首は「いってんしんにょう」が正式表記
※愈史郎の「愈」は旧字体が正式表記