アジア最高峰のファンタスティック映画祭!韓国・プチョンで世界各国の最新ホラー三昧
韓国・ソウルの都心部から地下鉄に乗って約1時間。今年も7月3日から11日間に渡ってプチョン(富川)市で開催された、プチョン国際ファンタスティック映画祭に参加してきた。第29回目を迎えた同映画祭は韓国の3大映画祭の一つで、アジアを代表する、ホラー映画を中心としたジャンル映画に特化した「ファンタスティック映画祭」だ。
今年のプチョンは韓国を代表するスター、イ・ビョンホン主演作の回顧上映と、ボディ・ホラー特集という二本柱が軸。ボディ・ホラーで注目を集めたのが、今年のサンダンス映画祭でお披露目され、A24やNEON、フォーカス・フィーチャーズ、サーチライト・ピクチャーズといった錚々たる映画会社の間で争奪戦が繰り広げられ、最終的にNEONが北米配給権を獲得した話題作『Together』(25)。
デイヴ・フランコとアリソン・ブリーという実生活のカップルが主演を務めた同作は、ニューヨークから田舎に引っ越したカップルが、ハイキング中に謎の洞窟で水を飲んだことで身体に異変が生じる恐怖を描いたスーパーナチュラル・ホラーであり、ボディ・ホラー。2人の肉体が無意識にお互いを求め合い、触れるだけで融合していくというビジュアルもセンセーショナル。ブライアン・ユズナ監督の『ソサエティー』(89)やスチュアート・ゴードン監督の『フロム・ビヨンド』(86)といった往年のボディ・ホラーを彷彿とさせる、アダルトで性的な描写も含むショッキングなアート・ホラーだ。
他にも、同じく今年のサンダンスで上映された、シンデレラを再解釈したノルウェイの『The Ugly Stepsister』(プチョンで最優秀作品賞と観客賞の2冠!)や、謎の伝染病を題材にしたフランス・ベルギー合作の『Else』(24)、旧作ではフランク・ヘネンロッター監督の『ブレインダメージ』(88)、ボディ・ホラーの大家、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『戦慄の絆』(88)、トム・シックス監督の『ムカデ人間』(09)、ハンガリーの怪作『タクシデルミア ある剥製師の遺言』(06)など、なかなか濃厚なラインナップだった。
それ以外で目についたのが、フランス人監督ダヴィッド・モロー(『正体不明 THEM』)の『MadS』(24)。18歳の少年がある夜、新しいドラッグを試してパーティに参加、その帰り道に怪我を負って血を流している謎の女性に遭遇するが、それを機に心も異常をきたし自分をコントロールできなくなる。という終末的な一種のゾンビ映画なのだが、アクション色が濃くゴア描写も鮮烈で、ワンショットで全編を撮影したのがウリなだけに、非常にスリリングで疾走感あふれるワイルドな作品に仕上がっていた。
今年のベルリン国際映画祭でお披露目された、ブルーノ・フォルザーニとエレーヌ・カテト(『煽情』『内なる迷宮』)のフランス人夫婦監督の最新作『Reflection in a Dead Diamod』(25)も印象に残った。マリオ・バーヴァ監督の『黄金の眼』(67) を彷彿とさせるスパイスリラーだが、サイケデリックでトリッピーな映像を含むセンセーショナルな映像を畳み掛ける、強烈なゴア描写も込められた2人組監督らしいユニークでスタイリッシュな秀作だ。
ベルギー人監督、ファブリス・ドゥ・ヴェルツ(『変態村』『地獄愛』)の最新作『Mardoror』(24)は、昨年のヴェネチア映画祭でワールド・プレミア上映された実話ベースの作品。1990年代にベルギーで起こった性犯罪者による幼児連続誘拐殺人事件を追った、『ゾディアック』(07)を思わせるダークで骨太なクライム・スリラーだが、人間が持つ深い闇にとことん切り込み、凄惨でヘヴィな描写も含むなどもはやホラーの領域。ベアトリス・ダルの怪演も光る。上映時間はなんと圧巻の155分。これは近年のヴェルツ監督作ではベストと言っていいだろう。
韓国のホラーでは、2本の新作がメイン会場でワールドプレミア上映され、それぞれチケットは完売に。一本は、人気K-POPアイドルグループ、Red Velvetのメンバー、イェリ主演『The Ghost Game』(25)。ジャヨンは子供の頃に失踪した姉の身になにが起こったのかを突き止めるため、廃墟ビルの貯水地で友人たちと交霊会を敢行するが、悪霊を呼び寄せてしまい恐ろしい事態に巻き込まれる。前半は都市伝説ものの青春ホラーと思わせながら、ツイストもあるダークなホラーへと着地し、ただのアイドル映画ではないことを証明していた。
もう一本が、人気学園ホラーの続編『Idiot Girls and School Ghost 2: Teaching Practice』(25)。母校の教育実習にやってきた女性教師が、全国模擬試験で1位の女子高生率いる黒魔術クラブの背後に魔女が存在することを知ってしまい...というストーリー。日本の唱歌「かもめかもめ」を大々的にフィーチャーし、日本語を話すキャラクターが登場するなど日本色が濃い作品だが、ゲーム的な内容で前作以上にコミカルなホラーだった。主演はハン・ソナ(『マイ・スイート・ハニー』)とK-POPグループ、宇宙少女のイ・ヨルム。
香港に実在する通りの名前を冠した『Possession Street』(24)は、元スタントマンの男が経営する寂れたDVD屋が入った古びたショッピングモールに悪霊が解き放たれ、謎のウィルスが蔓延し住民たちがおぞましい姿に変貌を遂げていく。『REC/レック』(07)を彷彿とさせる設定ながら、ゾンビ映画の変種としてグロテスクな描写を散りばめた80ʼsなホラー。父と映画好きの娘のドラマを軸にしながら、最後に主人公のアクションが華麗に炸裂するのかと思いきや、それほどでもなかったのはやや肩透かし。日本の『マタンゴ』(63)のようなテイストもありつつ、香港ならでは濃厚でエクストリームなホラーに昇華されていた。
最後に取り上げたいのが、マディー・ハッソン(『マリグナント 狂暴な悪夢』)主演の『Bone Lake』(24)。湖畔の一軒家にバカンスにやってきたカップルが、一緒に滞在する羽目になった怪しげなカップルのせいで地獄を見る、というサバイバル・ホラー。疑心暗鬼にまみれた緊迫感溢れるエロティックなスリラーから、突如盛大に血飛沫が舞うゴアなホラーに突入する展開はなかなか痛快。北米でハロウィン・シーズンの10月に劇場公開となる。
政府による予算削減も影響し、例年に比べ上映作品数がやや少なかったものの、ほとんどのチケットがソールドアウトになるなど大盛況だった今年のプチョン国際ファンタスティック映画祭。世界各国の最新ジャンル映画をとことん堪能できた、収穫の少なくない1週間だった。
文/小林真里