『ヴァージン・パンク』梅津泰臣監督が語る、R18+作品との違いと美少女キャラへのフェチズム「ピンスポットなポジションにこだわる」
「『ブレードランナー』の呪縛から解放されたかった」
――美術もいいですよね。カラフルなのに目に痛くないし、そもそも舞台はずっと太陽の下でした。
「舞台として意識したのはポルトガルです。確か、スタッフから出たアイデアだったと思います。リスボンは起伏の多い地形で、坂道がたくさんある。美術チームからそれをちゃんと表現できたら立体的な空間が生まれるから是非、挑戦したいと言われました。アニメで坂道を描くの、とてもハードルが高いですからね。チャレンジしただけの見応えはあったと思います。
昼間にこだわったのは『ブレードランナー』(83)の呪縛から解放されたかったから。夜間シーンもなし、雨もほぼ降らせない。カラフルでカラっと晴れたような世界観にしたかったんです」
――梅津さんは映画も大好きなことで知られていますが、参考にした映画などあれば教えてください。
「具体的に挙げるなら『L.A.コンフィデンシャル』(97)とドラマシリーズの『ブレイキング・バッド』(08~13)です。前者は黒幕が、ケビン・スペイシーを振り向きざまに撃つシーン。ここ、すごく衝撃を受けたので今回、エレガンスが羽舞ちゃんを撃つシーンで使いました。後者も大好きなドラマ。主人公が死体を溶かすシーンが印象的だったので、エレガンスが羽舞ちゃんの身体を溶かすシーンの参考にしました。
作品のトーンを決めるうえで意識したのはカメラマンです。『レヴェナント:蘇えりし者』(15)のエマニュエル・ルベツキとか、ロジャー・ディーキンスとか。撮影さんには言ってないですが、僕は意識した。ディーキンスの『ボーダーライン』(15)、『007 スカイフォール』(12)の上海のシーンがすばらしく、ああいうのをやりたいと思いました。光と闇のコントラストやその空間の空気感。とりわけ室内シーン、羽舞ちゃんが自分の部屋に戻るまでの室内シーン、ドアを開けてからの部屋の雰囲気等、常に照明や色合いを考えながら作っていったんです。最後のほう、曇り空で小雨が降っていますが、このシーンも徹底的に映像にこだわりました」
――映画と言えば、意味ありげな女の子、ヴェスパ(声:上坂すみれ)の部屋に『座頭市二段斬り』(65)のポスターが貼られていましたね。
「あの子は『座頭市』の大ファンという設定なんです。なので『座頭市』シリーズのポスターを貼りたくなって、一番デザイン的にフィットしたのが『二段斬り』だった。もちろん、ちゃんと許諾を取って使っています」
――最後にタイトルのことをお伺いします。『ヴァージン・パンク』というタイトルとは違うアイデアがあったとお伺いしていますが。
「僕が当初、考えていたのは『スプラッシュ・ベイビー』だったんです。でも、脚本の高橋(悠也)さんが『ヴァージン・パンク』というアイデアを出してくれた。もしかしたら“羽舞(ウブ)”という名前から“ヴァージン”という発想をしたのかもしれない」
――いや、絶対『ヴァージン・パンク』のほうがいいですよ。
「わかってます(笑)。だからそっちを使ったんです」
取材・文/渡辺麻紀