『ヴァージン・パンク』梅津泰臣監督が語る、R18+作品との違いと美少女キャラへのフェチズム「ピンスポットなポジションにこだわる」

インタビュー

『ヴァージン・パンク』梅津泰臣監督が語る、R18+作品との違いと美少女キャラへのフェチズム「ピンスポットなポジションにこだわる」

「そのキャラクターに合ったアクションを表現したい」

――エレガンスは成人した女性をサイボーグ化した時、わざわざ14歳の少女に戻し、自分好みにしたわけですから、ある意味、ピグマリオン・コンプレックスですよね?『マイ・フェア・レディ』(64)みたいな感じ。

「言われてみればそうかもしれません。自分になびいてくれないけど、それでも自分好みの姿に変えたいという男性の欲望。ただし、エレガンスの場合、フィジカルな関係になりたいわけではなく、側に置いて眺めていたいという感じ。『わたしの人形になれ』でしょうか(笑)。ただ僕には、あそこまでの支配欲はないし年齢的なストライク・ゾーンはティーンエイジャーではありません(笑)。あくまで外見的なフェチズムは若干投影してます」

バウンティハンターとして生活をしていた24歳の羽舞
バウンティハンターとして生活をしていた24歳の羽舞[c]梅津泰臣,シャフト/アニプレックス

Mr.エレガンスによって14歳の姿をしたソーマディアに脳を入れ替えられた
Mr.エレガンスによって14歳の姿をしたソーマディアに脳を入れ替えられた[c]梅津泰臣,シャフト/アニプレックス

――ということは梅津さん、美少女大好きなわけですね、今更ですが。

「はい(笑)。それも、彼女たちがアクションをするのが大好きです。僕が抱えている企画のなかには、おじいちゃんとおばあちゃんがアクションするという作品もあるんですが、誰もいいとは言ってくれない(笑)。そこには、美少女じゃないと観客に受け入れられにくいというのがあるし、僕がやるならやっぱり美少女がいいという人が多い。まだ14歳で、身長も140cmくらいの小柄な羽舞(うぶ)ちゃんが、むくつけき野郎どもをバッタバッタと倒して行くのが爽快という感想をたくさん聞きました。エレガンスに囲われているのはイヤでしょうがないんだけど、その気持ちを抑え復讐の機会を狙っている姿がいじらしいって。あとは彼女の武器の可動式のブーメラン。女の子なので、でっかい野郎たちと接近戦では不利になる。もちろん銃はいいんですが、ほかにも特徴的な武器が欲しいと思い、考えついたのがブーメランだったんです。距離感を保ったうえで相手を仕留められるでしょ。アニメではあまりブーメランを武器として使った作品はないんじゃないかな。なにを出してくるのか最初はわからないというふうにしたのは、相手を油断させるためです。ちっちゃな女の子が武器を持つのはやっぱりかっこいい。大好きですよ(笑)」

無類の少女好きで、バウンティハンター集団の経営者、Mr.エレガンス
無類の少女好きで、バウンティハンター集団の経営者、Mr.エレガンス[c]梅津泰臣,シャフト/アニプレックス

――羽舞ちゃん、身体がサイボーグ化され、ナイフを腕に突き刺しても跳ね返す堅い身体になりますが、なぜか胸だけは柔らかくて揺れていますよね?これ、梅津さんの趣味ですよね?

「いやいや、ちゃんと根拠があるんですよ(笑)。そういう強度のあるシリコンが実際に存在しているという事実をスタッフが見つけてくれて」

――ということは、胸を揺らしたいから理屈を探した?

「違います(笑)!皮膚を貫かない素材って実際にあるんだろうかという僕の疑問に対して、そうやって答えを出してくれた人がいたんです。『そうか、だったら胸が揺れてもいい』『それだったらやっぱり揺れるだろう』って」

ソーマディアの肉体を活かした超絶バトルが展開!
ソーマディアの肉体を活かした超絶バトルが展開![c]梅津泰臣,シャフト/アニプレックス

――なるほど!本作では、そういう胸の揺れも含め、梅津さんらしいアクションも炸裂していますよね。

「僕のアクションは、カットを短く割って、ちょっとつまんでハリウッドのアクション映画のテイストを入れたスタイル。それを『A KITE』で初めてやったんですが以来、特徴的なアクションだと言われるようになりました。最近は長回しのアクションが流行っていますが、僕の場合はカットを割ってテンポよく見せるアクション。もう一つの特徴はスローモーションを使わない。リアルタイムでアクションを見せることが、アクションのキモだと思っているからです。そのほうがポンポンとテンポよく進むので、観ているほうは気持ちいいんだと思っています。それに、僕は自分の技術を見せるためにアクションさせるのではなく、そのキャラクターに合ったアクションを表現したい。つまり、アニメーターの特徴やクセでアクションを構築するのではなく、自分が考えるキャラクターのアクションに落とし込むんです。
実はこのスタイル、ある人に褒められて導入したところもありますね。それは『A KITE』の編集をお願いした瀬山(武司)さん。ジブリ作品や『AKIRA』(88)を担当した大ベテランの方なんですが、そんな瀬山さんに『梅津くんのカット割りは日本のアニメ界ではやってないスタイルだよ』と言われてすごくうれしかったんです。そうか、だったらそれを自分の個性にしようって」

登場する違法ソーマディア指名手配犯たちは、イカれたやつらばかり
登場する違法ソーマディア指名手配犯たちは、イカれたやつらばかり[c]梅津泰臣,シャフト/アニプレックス

――そういう独自のスタイルをもっているから、テレビシリーズなどでは後半、見るからに違う“絵”や“動き”になってしまうんでしょうか。

「なぜか僕だけそう言われるんですよ(笑)。テレビシリーズの場合、すべてをひとりでやることは不可能です。2話以降は自分の手を離れ、ほかの人が絵コンテを切り作画監督をする。それがデフォルトと言ってもいいくらいなのは、さほど問題が起きないからです。にもかかわらず、僕の場合はほかのエピソードと違い過ぎると言われてしまう。回を重ねるごとに梅津濃度が薄くなって行くようなんですね。だから僕はテレビシリーズじゃなく映画向きなのかもしれない。映画の場合は、自分の濃度で最後まで走れるから。『ヴァージン・パンク』はシリーズ化の予定なので後半、梅津濃度が薄くならないようにするのが使命だと思っています」


――その梅津濃度をキープするためもあって制作に10年もかかったんですか? 

「時間にとらわれず丁寧に作ったから、その結果として梅津濃度をキープできたという言い方が正しいと思います。段取りをちゃんと踏み、労働時間的にも無理をせず丁寧に作った。精神的にも肉体的にもしんどい思いせずに作れたんです。出来上がったパートも、僕が気に入らなければやり直すということもやらせてもらった。アニメの制作というのは基本、マイナスの発想で動くんですが、本作のシャフトスタジオの場合はプラスで動いてくれた。僕が最後までやれる環境を整えてくれたから、徹頭徹尾、梅津色を出せたんだと思います…。まあ、だからといって、その恵まれた状況に100%甘えなかったとは言えないのが問題かもしれませんが(笑)」

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