政治的混乱が映画界にも影響…ユ・ヘジン出演作『野党』『焼酎戦争』、異色のヒーローコメディ『ハイファイブ』など韓国現地の話題作は?
今年はまだ大ヒットと言える韓国映画はないが、上半期公開作で観客数が最も多かったのは、ファン・ビョングク監督の『野党(原題:야당)』だった。観客数約338万人というのは、ポン・ジュノ監督の『ミッキー17』(25)の韓国での観客数を上回るスコアだ。“野党”と言っても政治の話ではないが、上半期の観客数があまり伸びなかったのは、まさに政治の影響が大きい。昨年12月にユン・ソンニョル前大統領が突然“非常戒厳”を宣言して以来、映画以上に劇的な現実に韓国社会全体が振り回され、やっと6月初めの選挙で新たな大統領が誕生し、いまは落ち着きを取り戻しつつある。
主演作『野党』『焼酎戦争』が続いたユ・ヘジンが大活躍
最近活躍が目立った俳優は、『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(17)、『破墓/パミョ』(24)などで知られるユ・ヘジンだ。先述の『野党』ではカン・ハヌルと、5月末に韓国で公開された『焼酎戦争(原題:소주전쟁)』ではイ・ジェフンと共にいずれも主演を務めた。
『野党』は麻薬犯罪にまつわる映画だが、近年、実際の映画界にも麻薬が影を落としている。2023年の年末には俳優のイ・ソンギュンが薬物使用容疑で捜査中に自ら命を絶った。また、違法薬物を常習的に使用したとして麻薬類管理法違反などの罪に問われた俳優のユ・アインは今年7月、大法院(最高裁)で懲役1年、執行猶予2年、罰金200万ウォンの判決が確定されるなど、麻薬に関するトピックは無くならない。
この映画のなかで言う“野党”とは、麻薬情報を捜査機関に提供して利益を得る麻薬ブローカーを指す。野党であるイ・ガンスをカン・ハヌルが、彼から情報提供を受ける検事ク・グァンヒをユ・ヘジンが演じており、ギラギラした悪党ガンスと、善人の仮面を被った出世欲の塊グァンヒの対比が際立っている。動機不純ではあるにせよ、2人はやがて名コンビとなり次々に麻薬犯を捕まえることに成功するが、大統領候補の息子が絡む麻薬事件をめぐっては、ガンスとグァンヒの関係にヒビが入る。平穏な時ならハラハラする内容だが、大統領が逮捕される現実を前に、若干かすんでしまったのは致し方ない。
一方の『焼酎戦争』は、1997年のアジア通貨危機の頃が時代背景。ユ・ヘジンが演じたのは、資金難で傾く焼酎会社の財務担当ジョンロク。会社を愛するあまり、グローバル投資会社の社員インボム(イ・ジェフン)にも騙される実直な男で、『野党』で演じているグァンヒとは正反対のキャラクター。観客数はあまり伸びなかったが、拝金主義に染まっていく世のなかで、働く意義を考えさせる一作だった。