綾野剛と柴咲コウが『でっちあげ』で演じた“圧倒的な静と動”。2人が語る薮下&律子像とは?

インタビュー

綾野剛と柴咲コウが『でっちあげ』で演じた“圧倒的な静と動”。2人が語る薮下&律子像とは?

「律子と薮下を“圧倒的な静と動”というふうに捉えていました」(綾野)

綾野は、“動”を意識して薮下を演じたという
綾野は、“動”を意識して薮下を演じたという[c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

――動作的なことで気になったことが1つあって、薮下は随所随所で肩を回す癖があるように見えたんですが、あれは綾野さんのアイデアでしょうか?

綾野「僕は律子と薮下を“圧倒的な静と動”というふうに捉えていたので、薮下は“情報量が多い人”を目指しました。癖という位置づけではなくて、“動”の量を増やす事で“誤解”を散りばめた、と言う方が適確かもしれません」

――セリフで説明するのではなく動作として足すことで、薮下の人物像に奥行きを持たせたという感じでもありますか?

綾野「人間誰しもそうだと思いますが、一人の人間にも“面”がたくさんあって、大抵は正面から見ていることが多い。そのなかで、どうすれば“面”を増やせるか考えた結果のひとつが、仕草の量でした。役づくりというのは削いでいくこともできますが、この『でっちあげ』における薮下誠一については面を足す方向に意識を傾けました」

――綾野さんが薮下の“動”を散りばめたのに対して、柴咲さんは“静”を貫いたという感じでしょうか?

なにを言われようと動揺しない…圧倒的“静”だった律子
なにを言われようと動揺しない…圧倒的“静”だった律子[c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

柴咲「いえ、特に反対側を狙ったわけではなかったですね。自分のなかで“律子はこういう人物だ”という芯を序盤から捉えることができていたので、自ずとあの佇まいになったと言いますか。ただ、人間も生物なので、相手の身体的な動きに対して外部刺激を受けると思うんですけど、律子は受けないんです。そこは彼女の“静”の要素がわかりやすく出ているところじゃないでしょうか」

――ある場面で、律子が主張してきた訴えの根源が揺るがされることになります。しかしそのことを突きつけられても律子は表情すら変えずに自分の主張を曲げないところが、まさにそれですよね。

柴咲「そうです。『あなたの言っていることなんて、どうでもいいです』というのが、律子の純然たる主張なので。ただ、単にサイコパス的な見せ方をしたかったわけではなく、(映画の基となっている福田ますみの)ルポの内容を把握したうえで、三池監督からも『こういう表情、こういう佇まいで』といった説明をあらかじめ受けてもいたので、そのイメージを思い描いて表現したという感じです」

「説明しない感じがいいなと思いました」(柴咲)

――これは感想になってしまいますが、最終弁論の日に薮下が正直な心情を吐露するシーンが印象的でした。画角とピントが前方の薮下に合っているのもあって、後方に座っている律子の表情の詳細がわからない。でありながら、カットインして律子のアップの表情を見せるような説明的な構造になっていないのが、“映画”的だなと感じました。


裁判所のシーンの撮影方法にも注目
裁判所のシーンの撮影方法にも注目[c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

柴咲「世の中的には“虚言を吐く人の本性を暴きたい”だとか“化けの皮を剥がして、うろたえているところを見たい”といったサディスティックな欲望があると思うんです。だから律子の表情を見せるのが定石だとは思うんですけど、それをしないんですよ、この『でっちあげ』は(笑)。彼女もそこで表情を変えるような人物ではないんですけど、あのピントがボヤけているのは、『ここまで映画を観てきて、律子が動揺するような人じゃないのはわかりますよね』というところで、わざわざ焦点を当てることもないでしょう、という演出でもあるのかな、と。その説明しない感じがいいなと思いました」

――綾野さんは、撮影監督の山本英夫さんとは直近ですと『まる』(24)でもご一緒されていて。

綾野「ドラマ『S -最後の警官-』であったり、何本かご一緒させてもらっていますが、英夫さんの行動と想像と胆力にいつも魅せられています。素速くカメラの位置を定めて、全スタッフの誰よりもいち早くその場所にいらっしゃるんです」

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■衣装協力
・綾野剛
スーツ(ヴィンテージ):¥88,000(King of Fools/Instagram:@kingoffools_designers_vintage)
人差し指リング:¥22,000
小指リング:上から¥24,200、¥11,000、¥22,000
※リングすべてヴィンテージ(RESURRECTION/Instagram:@resurrection_gallery)

・柴咲コウ
チュールレースハイネック(near.nippon):¥18,700(near./0422-72-2279)
ドレープドレス(CINOH):¥49,500(MOULD/03-6805-1449)
ピアス(PRMAL):¥55,000/1つ売り価格(PRMAL/support@prmal.com)
ネックレス(oeau):¥330,000 (Harumi Showroom/03-6433-5395)

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