続編制作も決定!実写版『リロ&スティッチ』に心動かされる理由を、精神科医の名越康文が徹底分析

続編制作も決定!実写版『リロ&スティッチ』に心動かされる理由を、精神科医の名越康文が徹底分析

「あの行為がまさにスティッチが愛を知ったことの証明」

犬のシェルターで出会ったリロとスティッチ
犬のシェルターで出会ったリロとスティッチ[c]2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

本作ではリロだけではなく、スティッチが初めて、自分自身が犯した罪の重さを感じるシーンも、非常に丁寧に描かれていたと言う名越。「スティッチは、遺伝子操作などを経て、最強の生物として誕生したから、親との愛情交換ができていなかったけど、事件を起こしたことで『自分はとんでもないことしでかしてしまった!』と、自分を罰するシーンがあります」。と、自身の行動を反省したスティッチが、リロと出会った保護犬センターの檻の中に自ら入ってしまうシーンをあげる。

リロとスティッチはかけがえのない親友になっていく
リロとスティッチはかけがえのない親友になっていく[c]2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

「『愛情をかけられたものは愛情を知る』というくさい言葉もありますが、愛情というのは、そういう記号的なものじゃないです。自分を大切にしてくれた人を傷つけてしまった!もう元には戻れない!という衝撃を、あれほどの暴れん坊であるスティッチも受けたんです。だから、自分から檻の中に戻るんです。あの行為がまさにスティッチが愛を知ったことの証明であり、とても深いシーンだなと思いました」。

社会福祉局の職員ケコア役に、アニメーション版でナニ役を演じたティア・カレル
社会福祉局の職員ケコア役に、アニメーション版でナニ役を演じたティア・カレル[c]2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

また、名越は職業柄、児童相談所の仕事も長年しているそうで、社会福祉局員と姉妹のやりとりにも心をもっていかれたと語る。ナニはリロと一緒に暮らしたいが、社会福祉局の立場としては、トラブルばかりが続く2人だけでの生活を許してはくれないというせつない流れになる。「もちろん物語なんですが、リロとナニ姉妹の想いが非常にリアルなんです。演技が一流というか、役者さんが姉妹の置かれた背景をどれだけ理解できていたか、ということだと思います。あのシーンは、あまりにもリアルすぎて、やっぱり役者って“怪物”だなと思いました」と感心する。

「リロが踊るシーンに僕はやられてしまいました」

フラやハワイの音楽も物語を盛り上げていく
フラやハワイの音楽も物語を盛り上げていく[c]2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

ほかにも名越は、「リロが踊るシーンに僕はやられてしまいました」と、ハワイ島カイルア・コナ生まれで、ハワイ先住民の血を引くというリロ役のケアロハがフラを踊るシーンが非常に味わい深かったと語る。「現代を生きる人たち、特に先進国の人たちは、孤立感や孤独、つまり世界との間で隔たりを感じている人が多いとされています。僕自身もそう感じていますが、“個”ではなく“全体性”の感覚を獲得していくことは、すごく大きな課題でもあります。だからこそ神との手話とされているフラを基本に置いた本作の音楽は、まるで水が砂に吸い込まれるように僕の中に入ってきました。あのフラのシーンを見ただけで、自然に涙が流れてくるような感覚を覚えましたね。本作は、こういったハワイの歴史や自然、音楽的な風土を背景にしている点もいいですね」。

音楽では、アニメーション版でも使用された名曲が物語に寄り添うように流れ、リロが大好きなエルヴィスの楽曲も多数登場。エンドソング「バーニング・ラヴ」は、ハワイ出身の世界的アーティスト、ブルーノ・マーズがプロデュースしている。名越は「僕はブルーノ・マーズの大ファンです」としたうえで「ただ、本作ではそれらの楽曲をあまり前面に出していくような音の構成にしていない。あんな名曲を背景として使っていて、映画としてのバランスをとても大切にしている映画だなと思いました。ハワイアンならではの自分の周りの環境に対する敬意や感謝、そしてそれらと一体になることによって勇気づけられ、生きていく力が湧いてくる。ちゃんと伝統を踏まえつつ、そこをしっかりと押さえているからこそすてきな映画になったと思います」と隅々まで映画を称えた。


『リロ&スティッチ』は公開中
『リロ&スティッチ』は公開中[c]2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

日本だけではなく、世界中でメガヒットしている『リロ&スティッチ』。未見の方はもちろん、何度観てもいろいろな気づきを与えてくれる奥行きのある作品なので、ぜひリロやスティッチに会いに、映画館へ足を運んでいただきたい。

文/山崎伸子

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