続編制作も決定!実写版『リロ&スティッチ』に心動かされる理由を、精神科医の名越康文が徹底分析
「心の通じ合いがあったからこそ、2人は『親友になれる』と確信したわけです」
続いて名越が独自の観点から、スティッチというキャラクターの設定について解説。「ジャンバ博士が、宇宙で最も恐ろしく最も強い最強の生物を作ったと言っていました。いわば“破壊神”です。僕たちの世代でいえば、『北斗の拳』ラオウみたいな存在でしょうか。スティッチのモチーフはコウモリだとされていますが、コアラみたいにとてもかわいらしいです。僕がすごくおもしろいと思った点は、スティッチが“なにも刷り込まれていない”という設定にしたこと。スティッチは、親からの愛情を受けていません。この世に出現した時は試験管のようなものに入れられていて、おそらく彼が唯一、本能的に求めざるを得なかったものは、“自由”だけだったと思います」と指摘する。
「閉じ込められていたからこそ、スティッチは自由になることへの喜びを知っています。ただ、それ以外のこと、愛の豊かさや壊れやすさ、悲しみ、つらさなどはまったく知らない。そういう設定自体が僕はすばらしいなと思いました。アニメーション版も観ていますが、実写映画版は21世紀だからこそ、より一層響く気がします。“個”として出現してしまった存在が、どうやって自分のなかでバランスを取り、優しさの大切さを知っていくのか。それはとても現代的で、いまを生きる僕たちみんなに刺さるテーマだと感じました」。
名越はさらに「この映画では、いわゆるきれいごとを描いてないんです。すごく観やすくて、誰にでも理解できる物語だけど実に深い。まさにディズニーならではの洗練された脚本になっています」と賛辞を惜しまない。その具体例について、リロとスティッチが真の友達になるシーンを挙げる。「いつ、2人は親友になったと思いますか?」とまずは問いかける名越。
「途中まで、リロはスティッチに『あなたの80%ぐらいは悪いスティッチだよ。だからちゃんと反省しないといけません』と言っていて、なんとかスティッチをコントロールしようとします。ところがスティッチは相変わらずハチャメチャに物を壊したり、汚したりしていき、ある瞬間、遂にリロもキラリと目を輝かせ、一緒に大暴れしてしまいます。それが原因で、お姉さんのナニが窮地に立たされることになるわけです。もっと言えば、ナニが職を奪われる…自分たちの経済的な基盤をなくしてしまうという一大事となります。ただ、その心の通じ合いがあったからこそ、2人は『親友になれる』と確信したわけです」と解説。「『さあ、友達になろう!』というきれいごとじゃないんです。普通は超えてはいけない一線を一緒に超えてしまった時、相手との距離がぐっと縮まって、『じゃあ、私たちは親友だよね!』となれるんです」。
一方で、「ただし、それをちゃんと叱るのも親の役目です。とはいえ、『もうやっちゃダメだよ』と叱りつつ『でも、正直楽しかったんだろ?』と聞いてあげるも親の役目なんですよね。権力を持っている人間は、許すということも覚えないといけない」とも語る名越。「ちゃんとした秩序は絶対に必要ですが、同時に『これは学ぶ機会になる』という時に、猶予を与えることも大事です。羽目を外してめちゃくちゃ楽しかったけど、姉さんのナニをすごく悲しませてしまった。その両方がわかることが、大人になるということかなと。だから、きれいな枠のなかでだけ生きている人、すなわち自分に後ろめたさがない人間は、逆に大人になってからすごい冷酷になったりするかもしれない。そういう意味では、いろんなことを経験していくことが大事です。そこをちゃんと描いているディズニーは、やはりすごいなと思いました」。