激動の時代にこそ響く“怒り”と“魂の声”…映画『宝島』熱気あふれる「コザ暴動」撮影現場に潜入!
住民たちの怒りが爆発し伝播していく…圧巻の「コザ暴動」シーンの撮影に潜入
この日、撮影していたのは、物語の後半で描かれる「コザ暴動」のシーンだった。「コザ暴動」とは、1970年12月20日未明に沖縄県コザ市で発生した米軍関係車両の焼き討ち事件のこと。米軍による犯罪が見逃され、軍事裁判での不当判決が続いていたなかで、沖縄で暮らす人々が抱えてきた不満が爆発した事件だ。
撮影では、事故を起こした米兵がMP(憲兵)の車に乗せられ基地に逃げ込もうとするのを阻止しようと、地元民たちがMPの車を横転させ、火を点けるシーンが描かれた。道路沿いの店や看板、コーラの瓶1本にいたるまで、精巧に再現されたコザの胡屋十字路のセットで撮影されたこのシーンの迫力はすさまじく、シーン全体で地元民に扮した延べ2,000人を超えるエキストラが参加。一人一人に演出がつけられ、彼らの気迫あふれる演技も相まって、目の前で本当に暴動が起きていくような臨場感あふれるシーンとなっていた。近くの飲み屋で働く女性たちや町を治めるチンピラなど様々な立場の地元民たちが当時の服装を纏い、この時いっきに一つになっていく様子は圧巻だった。
『宝島』ではグスクの乗るシボレーやレイの乗るコンバーチブルのポンティアックチーフテンなどを筆頭に、アメリカ車が約50台使用されているが、このシーンで使用された車にも大友監督のこだわりが光る。当時の沖縄は右側通行で左ハンドル車しかなかったため、この仕様の車を探すのはひと苦労だったそう。最終的に集められた車は、日本全国はもとよりアメリカなど世界からも取り寄せられた。シーン自体は激しい暴動のシーンだが、フォークリフトを使用し車を丁寧に移動させ横転しているように見せていく流れは見事な職人技を見学することができた。
そのあと、妻夫木演じるグスクを乗せた車が反対車線から突っ込んできた車と正面衝突するというシーンも撮影された。入念なテストを何度も行った末に撮影されたこのシーンでは、実際に車同士を衝突させ、さらに人々が車を取り囲んで横転させていく様が描かれているので、ぜひ劇場でその迫力を確かめてほしい。衝突時の車内をとらえたシーンでは、鬼気迫る妻夫木の表情が印象的で、その表情が地元民の怒りに感化され少しずつ変わっていく様も見ごたえ十分だ。
リアルな当時の沖縄を映しだす、監督の新たな挑戦
本作の撮影は、沖縄パートと内地パートにわかれて行われ、沖縄パートは2024年2月25日にクランクインし、4月17日にクランクアップを迎えた。大友監督はNHKの連続テレビ小説「ちゅらさん」を手掛けたなかで、いつか1972年の本土復帰以前の沖縄を描きたいという想いがあったと振り返る。そのため今回は、アメリカ統治下の通貨や交通ルールまでが内地と異なっていた“チャンプルー”な沖縄を再現するために、ロケーション探しや美術の作り込みに多大な労力を費やしたという。
「当時、沖縄ではアメリカ軍専用のラジオから洋楽が流れていて、それを聴きながら子どもたちは育っていたし、ファッションだってなんだって生活のなかに自然とアメリカの文化が根付いていたんです。沖縄って、そういう意味では新しいものがたくさんあふれていた場所だったんですよね。だからこそ、本作は視覚的にも楽しめる作品になったと思います」。また今回は、“青い空、青い海”というステレオタイプな沖縄の風景ではなく、リアルな日常を描くことにもこだわったという。撮影期間中、沖縄では雨に悩まされることも多かったそうだが、「雨の沖縄はいいですよ。(映像の中の沖縄が)見たことない沖縄になるんですから」と、あえてそうした風景も作品に取り入れたと明かした。