「明日は我が身…という感覚」現役教師と保護者が『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』を観てみたら?

コラム

「明日は我が身…という感覚」現役教師と保護者が『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』を観てみたら?

福田ますみによるルポルタージュ「でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相」を映画化した『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』(公開中)。約20年前、日本で初めて教師による児童へのいじめが認定された体罰事件に踏み込み、凄惨な暴力描写、法廷で食い違う被告と原告との主張、苛烈なマスコミ報道とそれに熱狂する社会の姿が映しだされる。劇中で描かれる学校、教育、教師と生徒との関係性に対して、現役の教師や保護者たちはなにを感じたのか?本作をひと足早く鑑賞した、実際に教育現場で働く教員や保護者たちからは、「ひと言で表すならとても怖かった」(教員/30代・女性)「つらくなるほどリアル」(教員/30代・男性)といった感想が寄せられている。登場人物たちと立場が近しいからこそ、当事者的な目線で語られたコメントを紹介し、本作に渦巻く人間の怖さ、かすかに灯る一縷の希望にも迫っていく。

「目を背けたくなるような感覚」…情報社会だからこそ、自分事として観るべき作品

2003年、小学校教諭の薮下誠一(綾野剛)は、担当児童である氷室拓翔の母、律子(柴咲コウ)からいきすぎた体罰を行ったとして告発される。学校側の謝罪によって一時は収められるが、事件を聞きつけた週刊誌記者、鳴海三千彦(亀梨和也)の実名報道によって、瞬く間に日本中の知るところとなり、“殺人教師”のレッテルを貼られた薮下はマスコミの標的となってしまう。激しい誹謗中傷にさらされる彼に対し、さらに追い打ちをかけるように律子は550人もの大弁護団と共に民事訴訟を起こす。そして法廷に立つことになった薮下から語られたのは「すべては事実無根の“でっちあげ”です」という完全否認の言葉だった。

生徒想いな小学校教諭、薮下誠一
生徒想いな小学校教諭、薮下誠一[c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

「クローズZERO」シリーズ、『怪物の木こり』(21)などの三池崇史が監督を務め、事件に翻弄され、熱狂していく人々や社会の根深い闇をもあぶりだしていく本作。名匠・三池監督の手腕が光り、“社会派”としてだけではなく、観る者をスクリーンの中に引きずり込む吸引力がすさまじい、エンタテインメント作品としての見ごたえも満載だ。

拓翔の母、律子を演じる柴咲コウ
拓翔の母、律子を演じる柴咲コウ[c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

「事件を知らなかったため、なにが真実なのか、薮下先生はどうなるのかなど、展開が読めず最初から最後までおもしろかったです」(教員/30代・女性)
「目にした情報を鵜呑みにしてしまいがちな現代人の自分にとって、目を背けたくなるような感覚」(保護者/30代・女性)
「誰もがその時々の情報を信じ、己の正義に従って行動を起こしているが、その正義が正しいものにも、誤ったものにもなり得ることを感じさせられた」(保護者/30代・男性)


鑑賞後すぐの率直な感想として、鑑賞者たちからは上記のようなコメントが挙がっている。事件にまつわる出来事が詳細に描かれ、当事者の置かれた状況、その時の心情も手に取るように伝わってくることからも、他人事としては受け止められなかったようだ。


薮下と彼から体罰を受けたとされる児童、氷室拓翔
薮下と彼から体罰を受けたとされる児童、氷室拓翔[c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会
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