「明日は我が身…という感覚」現役教師と保護者が『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』を観てみたら?

コラム

「明日は我が身…という感覚」現役教師と保護者が『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』を観てみたら?

「まったくの別人に見えた」…互いの視点によって印象が変わる綾野剛と柴咲コウ

本作の緊迫したリアリティはクセの強い登場人物たちを演じたキャストたちの存在感からも生みだされている。薮下を演じる綾野は、律子によって語られる殺人教師としての冷酷な顔と、日本中から敵意を向けられ心身共に摩耗していく姿を体現。律子役の柴咲もまた、我が子をなんとしても守ろうとする献身的な母親、淡々と薮下を追い詰めていく冷たい糾弾者という二面性を見事に演じ分けている。さらに、薮下を実名で報道する記者、鳴海三千彦役に『怪物の木こり』での怪演も記憶に新しい亀梨和也が扮するほか、木村文乃、光石研、北村一輝、小林薫、小澤征悦、高嶋政宏といった実力派キャストが集結した。そんなキャスト陣に寄せられたコメントも紹介したい。

薮下を演じる綾野には、「薮下先生に感情移入した」(教員/20代・男性)「場面によってまったくの別人に見えて、演技に引き込まれました」(教員/30代・女性)「演じ分けに圧倒されました!」(保護者/40代・女性)といったコメントが。 薮下は物語前半と中盤以降にかけて印象がガラッと変わる人物であり、その演じ分けが強く印象に残っているようだ。

同じく律子を演じる柴咲もシーンによって見え方が変わり、その振り幅には驚かされる。「不気味でなにを考えているのかわからない演技が作品を際立たせていた」(教員/20代・女性)「感情の見えない演技(虚ろな目、しゃべる時に表情筋がほぼ動かず口だけ動いているなど)が、律子の不気味さ、読めなさを絶妙に表現していると感じた」(教員/30代・女性)「柴咲さんの愛する息子のために必死になる姿が狂信的で怖かった」(保護者/40代・女性)など、薮下を告発する際の冷たい表情、じわじわと追い込んでいく姿に戦慄したという感想が相次いでいる。

息子のために学校側に必死の訴えをする律子だが…
息子のために学校側に必死の訴えをする律子だが…[c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

薮下の担当弁護士、湯上谷年雄を演じた小林には、「弁護士の湯上谷さんが学校生活における“先生”のようでとても心に残りました」(教員/20代・男性)「薮下先生を優しくサポートし、時には叱りながら一緒に走り抜ける弁護士役が非常にうまくはまっていた」(保護者/30代・男性)といった言葉が寄せられ、その人間味あるキャラクターが安らぎになっていたようだ。

薮下の担当弁護士、湯上谷年雄を演じた小林薫
薮下の担当弁護士、湯上谷年雄を演じた小林薫[c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

このほか、週刊誌記者の鳴海役の亀梨に「いや~な記者感が出ていて印象に残りました」(保護者/40代・女性)、校長役の光石、教頭役の大倉孝二にも「コンビでことなかれに持っていこうとする演技がよかった」(保護者/40代・男性)という意見が。いわゆるヒール的な役割をこなした彼らの存在感も際立っていた。

記者の鳴海は薮下を実名で報道する
記者の鳴海は薮下を実名で報道する[c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

「正しい情報を得ることの難しさに気づかされる」…思い込みに囚われず、多面的に考えることが大切

殺人教師と呼ばれ、尊厳までも奪われた薮下の運命は?そして、体罰は本当にあったのか?どこか影を帯びる律子にも秘密があることがしだいに明かされ、事件と裁判の行方から一瞬たりとも目が離せない。また、劇中での出来事は誰の身にも起こりうることであり、特に報道の向き合い方については、大量のニュースが次々と舞い込んでくる現代においても学ぶべきどころは多い。本作を観ることで得られた“気づき”についても教えてもらった。


「“人は主観から逃れられない”ということを改めて気づかされました。起こった出来事に対して、自分が見たこと、感じたことこそ正しい(真実)と認識してしまいがちです」(教員/30代・女性)
「正義感を煽る“見出し”に釣られた人間は、十分な根拠もなく信じ、自分に直接的な被害がないにもかかわらず流れに乗って攻撃してしまうことがある。正しい情報を得ることの難しさ、自分のなかで形成されたバイアスを取り除くことの難しさにも気づかされた」(保護者/30代・男性)
「生徒だけでなくそれぞれの家庭とも向き合わなくてはならない先生という職業の大変さ、報道の在り方、教育委員会という融通の利かない組織など、現在社会が抱える問題が浮き彫りになっていてすごく考えさせられる」(保護者/40代・女性)

児童たちのために頑張ってきたはずの薮下。果たして真実とは?
児童たちのために頑張ってきたはずの薮下。果たして真実とは?[c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

最後に、『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』をこれから鑑賞する人に向けてどんなところに注目してほしいか?という質問には、「自分を理解してくれる人を大切にすべきですが、自分で自分自身を信じてあげることも大切だと思います」(教員/20代・男性)「完全に他人事にはできない。いろいろ直視したくないけど一度は観るべき」(保護者/30代・女性)「観終わったら、様々なものの見方や考え方ができるようになるかもしれません。教師はとてもすてきな職業だ、ということを忘れずにいたい」(教員/30代・女性)といったコメントが見られた。思い込みで物事がどんどん進んでいく恐ろしさ、時には自身の信念に基づいて立ち向かうことの大切さも教えてくれる。

構成・文/平尾嘉浩

※高嶋政宏の「高」は「はしご高」が正式表記

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