『メガロポリス』がより深く楽しめる!フランシス・F・コッポラ監督最新作のストーリーやキャラをイラストでまるわかり解説
現在のアメリカの姿にも重なる物語
コッポラが本作に着手したのは1980年代初頭のこと。将来の脚本のために、歴史や政治など様々なアイデアの断片をメモやスクラップブックで収集し始めたのがきっかけだ。平等な社会を作るため古代ローマの貴族カティリナが計画したクーデター「カティリナの陰謀」に触発されたコッポラは、現代アメリカを舞台にした壮大な叙事詩として本作を構想。カティリナと彼を弾劾したキケロの図式をそのまま活かし、現在のニューヨークに古代ローマを重ねた架空の都市ニューローマの物語が完成した。「ニューヨークに行けば、ローマ時代の建物で埋め尽くされていることに気づかされるだろう」と語るコッポラ。見た目だけでなく貧富が二極化された格差社会、理想主義と現実主義による分断などその世界観は現在のアメリカ社会を彷彿とさせる。
主人公の名は平民派出身の政治家・軍人でローマの都市計画を推進したカエサルに変更されたが、宿敵キケロのほかクラッスス3世やクローディオなど主要キャラクターはネーミングを含めローマ史に登場する人物を基に設定。セレブが集うナイトクラブや妻殺しの冤罪事件、金融危機など劇中の事柄やエピソードは、実際にニューヨークで起きた出来事をモチーフに作られた。ジョセフ・コンラッドの小説「闇の奥」を、ベトナム戦争に重ねて『地獄の黙示録』を生みだしたコッポラらしいアプローチだ。
多額の私財を投じて実現させた“執念の一本”
こだわりのデザインワークも魅力の一つ。鉄やコンクリートを廃して永久に持続する新素材メガロンを使ったメガロポリスは、そこに暮らす人々の精神をも高める理想の都市。光り輝く摩天楼、川のように流れる道路など光り輝く優雅な景観に息をのむ。有機的なメガロポリスと対照的に直線を強調したニューローマのセットデザイン、古代ローマの戦車レースを再現した豪華絢爛なナイトクラブなど、イマジネーション豊かな世界が味わえる。
制作にあたりコッポラは、私財を投じて1億2000万ドル(約186億円)もの製作費を捻出。スタジオの意向を気にせず、撮りたいものを撮るというスタンスで制作された。1960年代の終わりにサンフランシスコに移ったコッポラは、ジョージ・ルーカスと制作会社アメリカン・ゾエトロープを設立。ハリウッドにはない自由な環境でキャリアを重ねた彼にとって、本作は原点回帰といえる。なおこの作品は、映画の完成を見届けるように2024年4月に死去したコッポラの妻で映画監督のエレノア・コッポラに捧げられた。
企画から40年もの時を経て完成した本作は、コッポラにとって執念の一本。メガロポリスに命を懸けて打ち込むカエサルは、キャリアを通しメジャースタジオと戦いながら映画を作り続けてきたコッポラ自身と重なって見える。撮影にはラージフォーマットが採用され、光り輝くメガロポリスなどスケール感あるシーンはIMAXカメラで撮影。自由な表現に挑み続けてきたコッポラだからこそ成し遂げた映像世界を、映画館で体感してみてはいかがだろうか。
文/神武団四郎