長澤まさみと矢口史靖監督が明かす、『ドールハウス』圧倒的な恐怖の裏側「めちゃくちゃ怖い映画になりました」
「こうすれば絶対に怖くなるのに、誰もやっていない見せ方をやりたかった」(矢口)
――ショッキングなシーンはほかにもいっぱいありましたが、こういう映画だからやりたかったみたいな演出や見せ方もあったのでは?
矢口「『かくれんぼしよ』っていうセリフから始まる、あの一連のシーンの細々したカット割りはすごくやりたくて。絵コンテもガッツリ描いて、時間をかけて撮ったシーンです」
――人影が後ろにいたり、前を横切ったり…。
矢口「そうそう。ベッドの上にいると思ったら…みたいなところ。合成やCGを使わなくても、こうすれば絶対に怖くなるのにいままで誰もやっていないよな、といった見せ方をたくさんやりたかったんです」
――少女の人形は何体使われたんですか?
矢口「人形は2体いらっしゃいました。真衣が抱きかかえたり、投げたり、落としたりするシーンの人形は柔らかい素材で作った軽めのもの。もうひとつは、クローズアップに耐えられる固くて重い人形。その2つをシーンごとに使い分けましたね」
――長澤さんは、こういう作品ならではのムチャな演出を受けたり、普段は使わない筋肉を使うようなことはなかったですか?
長澤「今回は芝居をする対象が人じゃなくて人形なので、撮影に入る前は『人形との芝居ってどんな感覚だろう?』って思ったりもしました。でも、人形のアヤちゃんは光の当たり方で笑っているように見えたり、苦しそうだったり、悲しそうだったり、表情のある子だったから、すごく引っ張ってもらった感覚があって。そこは普段のお芝居とあまり違いはなかったですね。ただ、アヤちゃんを操りながらお芝居をするところは、アヤちゃんが実在する空気感を一緒に作らなければいけなかったので、そこに気を配りながら演じました。それは瀬戸さんもたぶん同じです。3人が一緒にいる家族のシーンなどは、その空気感をなるべく作るような感覚でお互いにいたような気がしますから」
――矢口監督はこれまでも『雨女』(90)や『ひみつの花園』(97)、『WOOD JOB!』などで人形をギミック(演出の仕掛け)として使われていました。今作ではその人形が、ついに主役に昇格したわけですね。
矢口「言われて見ればそうですね。いままでは影の存在でしたけど、今回はど真ん中にいますから(笑)」
――田中哲司さんが演じられた呪禁師(じゅごんし)の神田が持ってきた、“人形を入れる箱”も禍々しい、妙に凝った作りになっていました。
矢口「あれは、こんな風にしたいという手描きのデザインを送って作ってもらった渾身の箱です。人間を入れて、周りからグサッグサッと刺す拷問用器具のイメージですけど、箱自体は僕の地元の神奈川県に実際にあんなのがあったんですよ。金網が張ってある、折鶴などで覆われた闇の中に観音様がポツンと立っているようなものでしたね。その重たい箱を隣の家の人が背負ってきて、家にある間はお水とご飯を毎日変えてあげる。それで、1週間後にうちの母が背負ってまた次の家に持っていくしきたりだったんですけど、幼少期の僕はその箱が怖かったんです。そのイメージでした」
――矢口監督が現場で長澤さんのお芝居を見てサムズアップをしたのは、先程のタイトル前の叫ぶところ以外にもあったようですね。
矢口「あと2つありました。1つは心療内科のグループセラピーで泣くところ。あと、もう1つは、佳恵が麺うち棒を使うくだりです」
長澤「あそこは、ちょっと嫌な気持ちになりましたね。でも、本気でやらないと面白くならないので、心を鬼にして思いっきりやりました」
――後半、特にラスト付近のお芝居も大変だったんじゃないですか?
長澤「いや、大変でしたね。CGを後から合成するところは実際の芝居だけではなく、動かずにじっとしていなければいけないリファレンス(参照素材)も撮らなければいけなかったから大変だったんですけど、子役の2人が本当に頑張ってくれて。あの一連は、スタッフと俳優が本当に一丸となって撮影を進めていた感じがあって。“いいシーンを撮るぞ!”という気合のもとに撮影が進んでいた気がするし、あの時の現場の空気感はとてもよかったです」
――ほかにも、監督のこだわりの演出を感じられたシーンはありますか?
長澤「元気のない佳恵が頬杖をついているシーンがあって…」
矢口「そこでは行動と心情の違和感を出すために手の動きを…いや、やっぱりネタバレしないほうがいいな。そこは、よ~く見てください」
長澤「最初の明るいシーンの佳恵を撮った時に監督がサバサバ感をすごく大切にしていたのも印象に残っています。彼女はそこからまったく別人のようになっていくので、それこそ自転車の漕ぎ方から仕草、『おかえり』って言う時の妙に明るい声のトーンまで、監督がその状況ごとに細かく色づけしてくださって。それが効果的に活きているなということを実感できたし、監督のひと言ひと言が腑に落ちました。人間は1つの性格で生きているわけじゃないですから。その場その場で違う自分や、本人も知らなかった自分が出てきたりする瞬間があると思うので、佳恵という人物の深みが増していく演出を受けながらお芝居をするのは楽しかったですね」
長澤まさみと矢口史靖監督が“怖い”と思うものとは…?
――ちなみに、お2人が普段の生活で怖いと感じるのはどんなもの、どんな時ですか?
矢口「石をひっくり返した時に、そこに虫がいっぱいいたり、卵がびっしりついていたりしたら、すっごい怖いです」
長澤「(爆笑)」
矢口「庭木の剪定をしている時にカイガラムシがいっぱいついているのも本当にゾッとします」
長澤「ああ、確かに」
矢口「あと、あれですね。道端で子どもをすごい勢いで怒っている親御さんを見ると怖いなって思います。それ、叱っているんじゃなくて、怒ってますよね?っていう瞬間を時々見るんですよ。まあ、しょうがないんでしょうけどね」
長澤「でも、私も集合体は怖いですね」
矢口「合わせないでください!(笑)」
長澤「手を置いた時に、そこに虫がいなくてよかったって思うこともありますから」
矢口「中学生の頃に桜の木に登っていて、手をかけたら、そこに毛虫がびっしりとついていたこともありました。あれは怖かったですね」
長澤「うわ~…」
――最後に、これまでに観た映画のなかでいちばん怖かった作品も教えてください。
長澤「私はやっぱり『リング』かな…。小学校低学年の頃だったんですけど、覚えていますね。劇中の見ちゃいけないビデオのように、VHSが回ってきて観ましたから」
矢口「そういう観方をしたの?」
長澤「そうですよ」
矢口「最高だね~」
長澤「いちばんいい、お手本のような観方ですよね」
矢口「シチュエーションとしては最高ですよ」
長澤「それで、おばあちゃん家の襖の隙間から観ました」
矢口「1週間後、電話はかかってこなかった?」
長澤「こないですよ!(笑)」
矢口「僕は『エクソシスト』ですかね。公開時には映画館に行けなくて、テレビで放送された時に観たんですけど、怖くて死ぬかと思いました」
取材・文/イソガイマサト