長澤まさみと矢口史靖監督が明かす、『ドールハウス』圧倒的な恐怖の裏側「めちゃくちゃ怖い映画になりました」

長澤まさみと矢口史靖監督が明かす、『ドールハウス』圧倒的な恐怖の裏側「めちゃくちゃ怖い映画になりました」

「爪を切ってあげるシーンで、人形の爪が本当に伸びていて…」(長澤)

――そもそも、矢口監督はなぜ本作の佳恵役を長澤さんに託そうと思われたのですか?

矢口「『WOOD JOB!』の時に、いろんな表情ができてスゴいという手応えがあったので、期待できると思ったんです。それに、ここまで直球の恐怖シーンがある映画にはあまり出られたことがないような気がしたので、“ズタボロにしたいな”という真っ黒な気持ちが芽生えてきて…(笑)。だから、キャスティングを開始する以前の、まだ誰も読んでない脚本を『長澤さんだけですよ』って感じで渡して読んでもらったんですけど、すぐに『やりたい』という返事が帰ってきましたね。そこから企画がどんどん動き出しました」

――矢口監督が今回の現場で長澤さんに特に求められたものは?

矢口「佳恵は、最初は本当に普通の健康的な若奥さんです。だけど、子どもを亡くした時に底辺まで堕ちてしまう。なのに、人形を買った途端に妙に明るくなって、その様子が旦那さんや映画を観ている人たちはちょっと怖かったりもする。そんなアップダウンの激しい役だけど、それが作り物ではなく、リアルに見えないとマズいので、そこをいちばん注意しながら演じてもらいました」

 娘を事故で亡くした佳恵(長澤)は人形を本当の娘のように可愛がるようになるが…
娘を事故で亡くした佳恵(長澤)は人形を本当の娘のように可愛がるようになるが…[c]2025 TOHO CO., LTD.

――人形の髪や爪を嬉しそうに切ってあげているシーンはちょっと不気味でした。

長澤「本当ですか?でも、爪を切ってあげるシーンは爪がある“ふり”でやると思っていたんですよ。そしたら…人形の爪が本当に伸びていたから驚きました(笑)」

矢口「リアルさや生々しさを求めたのは特に前半ですね。娘を亡くしてどん底状態だった佳恵は、人形を買って復活したように見えるけれど、その復活具合がちょっと不気味でなければいけない。しかも、2人目の子どもが生まれてからの彼女は、今度は人形を放ったらかしにして子育てに集中します。本当ならすごく微笑ましいシーンのはずなんだけど、観客はその時には人形に肩入れしているから、佳恵には幸せになってほしいと思うものの、人形のアヤちゃんが可哀想という気持ちになる。そんな状況を微妙なバランスで作り上げたかったので、それができる人にお願いしたというわけです」

長澤「あの一連の矢口さんの演出は面白かったですね。佳恵の心は定まっていないのに、観客には彼女の心が読める。佳恵自身の人間性や歴史、人間像で見えてくるその感じが面白いなと思いながら演じていました」

無表情なはずなのに、次第に、本当に人形が生きているように見えてくる
無表情なはずなのに、次第に、本当に人形が生きているように見えてくる[c]2025 TOHO CO., LTD.

――こういう作品ならではの演出もあったと思います。矢口監督がこだわった観客をゾクゾクさせたり、怖がらせたりする演出について具体的な例を挙げながらいくつか教えていただけますか?

矢口「まずは(タイトル前までの)ファースト・シーンですね。矢口作品だからと、どうしても油断して観る方がいらっしゃると思うんです。だから、気が緩まないように、あそこで強めの先制パンチをガツンと決めて。この先どうなっちゃうんだろう?本当に油断しちゃいけないんだっていう気持ちになるようにしたんです」

――あの衝撃的なシーンの長澤さんはいかがでした?

矢口「あの叫んだ顔を見て、長澤さんにお願いしてよかったと思いました。ムンクの『叫び』という絵画のように、人が絶望した時の顔をとことんやってもらいたかったんですけど、あの長澤さんの表情は、まさに絶望を超えた、これ以上ない悲痛なものでしたから。カットをかけた瞬間に思わずサムズアップ(親指を立てるGOODのサイン)が出ちゃいました」


長澤「あれ、確か2回やりましたよね」

矢口「叫ぶところまでは1日で撮って、叫ぶカットだけ実は後から2回撮ったんです」

長澤「セットの関係でそうなったんですけど、あんなに叫んだのは実は初めてだったかもしれない」

矢口「あそこまで叫んでいる長澤さんはあまり見たことがないかも」

長澤「やってないですね。『岳-ガク-』という映画で、吹雪のなか叫ぶシーンがありましたけど、あの時は風を起こす扇風機の音がうるさすぎて、叫び声はアフレコでしたから」

優しげな母の顔から、娘を失い抜け殻のようになった姿、そして恐怖に怯える表情まで様々な表情を見せた長澤まさみ
優しげな母の顔から、娘を失い抜け殻のようになった姿、そして恐怖に怯える表情まで様々な表情を見せた長澤まさみ[c]2025 TOHO CO., LTD.

矢口「今回は娘の死を目の当たりにしたお母さんの絶叫だし、あそこまで感情を爆発させるお芝居もたぶん初めてだったと思います」

長澤「だからすごく新鮮でした。しかも、いろいろなシーンを撮ってから、あのファースト・カットに戻れたので、それが気持ちを作る上での助けになりました」

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