木村拓哉「こういう先輩がいると、やる気が出ます」と山田洋次監督にハグ!『TOKYOタクシー』東京国際映画祭での上映で祝福
開催中の第38回東京国際映画祭(TIFF)にて10月29日、センターピース作品『TOKYOタクシー』(11月21日公開)の上映がヒューリックホール東京で行われ、舞台挨拶に倍賞千恵子、木村拓哉、山田洋次監督が出席した。ステージ上では「特別功労賞」を受賞した山田監督に向けて、倍賞と木村からは花束をプレゼント。木村は山田監督と熱い抱擁を交わして、受賞を祝福した。
本作は、山田洋次監督の91本目の最新作。昭和、平成、令和と日本に生きる人々を描き続けてきた山田監督が刻々と変化する東京を舞台に人生の喜びを謳いあげるヒューマンドラマ。山田組には欠かせない倍賞が終活に向かうマダムの高野すみれ役、木村が鬱々とした日々を送るタクシー運転手の宇佐美浩二役を演じている。
国際映画祭でお披露目が叶い、上映後の会場に立った倍賞は「ドキドキしています」と照れ笑いをのぞかせつつ、本作で経験したものづくりについて「みんなで一生懸命にひとつの山を登った」心境だと吐露。「形がなかった山ですが、富士山よりもすばらしい、『TOKYOタクシー』という山に登ることができました。私に撮って忘れられない作品になりました」と喜びをにじませていた。
木村は「東京国際映画祭のセンターピースとして『TOKYOタクシー』を選んでいただき、本当にうれしく思っています。映画祭のなかでも、一番大きい会場になっているということで。800名以上の方にこうやって受け取っていただけたこと、興奮しています」と感無量の面持ち。いまは気軽に家でも映像コンテンツを目にすることができるが、「映画のスクリーン、特別な音響に身を置いていただくという特別感は、僕にとってはスペシャルな環境であり、状況だと思っています。今日はうれしさと同時に、いろいろな国の方がどのような価値観、どんな恋愛観でこの作品を観てくださったのかなと興味が湧いています」とあらゆる国の人々が駆けつけた劇場での上映に、心を弾ませていた。
「準備を始めたのが昨年の秋口。完成してお披露目の場を得ることができて感慨無量です」という山田監督も、木村に同調。「やっぱり、映画は劇場で観るのがいいなと。こうして大勢の映画を愛する人たちと一緒に、スクリーンを観る。それが映画なんだと改めて感じたりしています」と会場を見渡し、「映画を作る時には、大きなスクリーンで上映されることを前提として作っているわけです。撮影をしながらも、そのことを自分に言い聞かせてきました。大きなスクリーンで、大勢の人が観るということを言い聞かせながら、作ってきたような気がします」と映画に臨む姿勢を口にしていた。
先日、第38回東京国際映画祭で永年の国内外を含めた映画界への貢献が目覚ましい人に贈られる「特別功労賞」を山田監督に授与することが発表された。この日のステージでは、安藤裕康チェアマンから山田監督にトロフィーが渡され、会場から大きな拍手が上がった。安藤チェアマンは、「戦後の日本社会の生き方について、そして日本人の今後の生き方について。そのようなテーマでたくさんの秀作を作ってくださっている」と山田監督の功績を称え、加えて「生き字引」だと表現。「戦後の日本映画の歩みをよくご存知で、それを語り部として語り継ぎながら、若い新人の方の育成にも励んでいる。世界中の映画についても、深い関心をお持ちでいらっしゃる。もろもろの功績に対して、特別功労賞を差し上げたい」と受賞の理由について語った。倍賞と木村からは、花束をプレゼント。倍賞は山田監督と握手を交わし、木村は山田監督と握手しつつ、さらに熱いハグでお祝い。観客から、万雷の拍手を浴びた。
「長生きしたら、たくさん映画も撮ってきてしまった。今日はそのことを褒められてこんな賞をいただけたんだと、戸惑いながらも思っています」と目尻を下げた山田監督は、「僕が映画界に入ったころ、助監督として撮影所に入りました。いまから70年近く前ですね。そのころの日本映画は、本当に充実していた。まさしく日本映画の黄金時代だなと思います。まだテレビはそれほど普及していなかったし、アジア諸国ではほとんど映画らしい映画を作っていない時代でした。映画には大勢の観客が集まり、映画は娯楽の王座と言ってよかった」と日本映画界の歴史を回想。
「その時代から比べるといまは厳しい時代で、いまの映画人はみんなとても苦労をしながら映画を撮っている。時々、かわいそうだなと思うことすらあります」と現状について触れながら、「そういう時代であるからこそ、こういう映画祭が催され、『映画ってなんてすばらしいのだろう』ともう一回、世界中の人と一緒に考える。そして映画を鑑賞する、映画を称える。そういう催しがあることに、本当に感謝しています。これからまた映画祭が来年、再来年と大きな実りを日本映画界に与え続けてくれるだろうと、期待してやみません。どうもありがとうございました」とお礼と共に映画への愛を口にすると、心を揺さぶられたように再び会場からは大きな拍手が湧き起こった。
「おめでとうございます」と改めてお祝いの言葉を贈った倍賞は、「山田さんの熱い想いがひしひしと伝わってきました。そういう下で今回の仕事ができたこと、本当にうれしく思っています」としみじみ。「これからも、おいしいものをたくさん食べて。いつもの『はい!行くよ』『本番、行くよ!』『行くからね!』と、なかなかいかない本番なんですが」と観客と山田監督を笑わせながら、「あの大きい声で、仕事場でまたお会いできることを楽しみにしています。これからもお身体に気をつけながら、もっともっと映画を作ってください」とエールを送りながら再タッグを強く願った。
「幼少期に柴又に住んでいたことがある」という木村は、柴又から始まる本作に特別な想いがあるという。「『男はつらいよ』の撮影をして人だかりができているのを、“人だかり分の1”として『なにやってるの?これ』とその景色を見ていた。『僕は(当時の撮影を)見ていたんですよ』と撮影中に監督に言わせていただいたら、『そうなのか、君はいたのか』という言葉をいただいた」と裏話を明かし、会場も大笑い。「今回の物語は、柴又帝釈天の山門の前ですみれさんを車に乗せ、物語がスタートする。撮影の時も、あの街の方々が、山田組がまたここで撮影をしてくれるという空気感になる。現場全体の空気感が、もう一度脈を打ち出した感じが現場でしていた」とキャストやスタッフだけではなく、柴又での撮影は街中が湧き立つような瞬間だったという。
木村は、「監督はいろいろなところに自分の欲というか、興味というか。現場で掛け声と決断をするだけではなく、いろいろなことに興味や愛情があるからこそ、現役なんだなと。その現役が今回の賞にもつながっているんだなと、いまトロフィーを受け取っている監督の斜め後ろからずっと考えていました」と実感を込め、「皆さんももちろん、ご理解をいただけていると思うんですが、こういう先輩がいると、もう一回やる気が出ますよね」とニヤリ。
「出ていた人間たちだけではなく、撮ってくれていた人、光を与えてくれていた人もいて。その山田組の最たる位置に、山田洋次監督という人が、この作品を届けてくれたんだなと。『TOKYOタクシー』を観ていただいた後に、こんな先輩がいてくれたんだなと感じていただけたら。作品を受け取ってくれた皆さんだからこそ味わえる、生きていく力や現役でいられる力を持っていただけるのではないかと思う」と映画の隅々まで染み渡る山田監督、そして山田組の持つ力について、強い想いを傾けた。山田監督は「ありがとう。ありがとう、木村くん」とお礼を述べ、木村は思わず照れ笑い。信頼で繋がれた登壇者の姿に、会場からは最後まで大きな拍手が鳴り響いていた。
取材・文/成田おり枝

