その教師に誰もが惑わされる…『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』『悪の教典』『セッション』など、映画に出てきたヤバすぎる教師たち
目的のためなら殺しも厭わぬサイコパス教師『悪の教典』
貴志祐介による同名小説を、『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』と同じく三池監督が映画化したサイコスリラー。生徒や教師を次々に手にかけていく教師を描いた衝撃作だ。明るく面倒見のよい性格で、同僚や生徒から信頼の厚い高校の英語教師ハスミンこと蓮実(伊藤英明)。ところが彼は他者への共感力を持たず、目的のためなら生徒も使い捨てにする冷酷な裏の顔を持っていた。ある時、蓮実は自分の犯罪行為を隠すため、慌ただしい文化祭の準備に紛れて、ある計画を実行する。
誰にでもフランクに接し人々の輪に入り込む力に長けた蓮実は、常に周りに目を配り、邪魔者はためらうことなく排除する超危険な男。ただし殺しは手段にすぎないところが、シリアルキラーとは一線を画している。万引きしているところを体育教師に見られた女子生徒が、口止め料として体を求められているのを知った時には店を訪れ謝罪。穏便に収めたあとに生徒に体育教師と関わらないよう諭す姿も見てとれた。もっともそれは、彼女を手なずけるのが目的でもあるのだが…。“人気教師”としての地位を確立していた蓮実。教師として世間一般的に必要とされるスキルや生き方を送れる人間も、その人自身が“善”であるかは、容易に知れるものではないと思い知らされる。劇中では蓮実の内なる声や、少年時代の姿も描かれた。はたして彼という男が何者なのか、映画で確かめてほしい。
娘を失った女性教師の復讐劇『告白』
湊かなえのベストセラー小説を中島哲也が映画化。自分の娘を殺した生徒に復讐する教師を描いたサスペンスだ。シングルマザーの教師、森口(松たか子)は、職員会議で遅くなる日は幼い娘の愛美(芦田愛菜)を学校の保健室で過ごさせていた。ところがある日、愛美は学校のプールで溺死してしまう。警察は事故と断定したが、森口は自分のクラスの生徒2人が犯人だと突き止める。
終業式の日、森口は娘の事故の経緯や、今日で教師を辞めること、そして娘の復讐をしたことをクラスの生徒に告白。学校で配られた牛乳のうち、犯人たちの分にエイズを発症したHIV患者の血液を混入したという。感情をなくしたように淡々と顛末を語る森口の口調が怖い。彼女は犯人の名前を公表せずA、Bとして話をしたが、クラスメイトはすぐに誰なのかを察知。新学期が始まると犯人の1人はエイズ発症を恐れ家に引きこもり、もう1人は激しいいじめの対象になっていく。それは森口のねらいだったのか、そもそも彼女の目的は復讐なのだろうか?母親としてではなく1人の教師として、犯人の“更生”を願う想いもあっての行動だったのか…。ラストシーンで彼女が口にする、すべての想いを込めたひと言に注目してほしい。
『でっちあげ』にも通ずる?体罰、暴言を告発された小学校教師『怪物』
『万引き家族』(18)でカンヌ国際映画祭の最高賞に輝いた是枝裕和監督作。小学校5年の湊(黒川想矢)と暮らすシングルマザーの早織(安藤サクラ)は、近ごろ様子がおかしい息子が担任の保利(永山瑛太)から体罰を受けていたと知る。早織は学校に乗り込むが、校長はじめ教師たちの対応はおざなりなうえ、保利は湊がクラスメイトをいじめていると言いだした。
本作の保利はこの学校に赴任したばかりの新任教師。真面目で子どもたちにも親身に接しているが、湊に対しては給食抜きを言い渡したり、出血するまで耳をつねるなど体罰を繰り返す。早織が学校を訪ねた時も謝罪はせず、誤解を与える指導だったと釈明するのみ。さらに子どもを心配しすぎるのは「母子家庭あるある」とまでつぶやいた。まさに絵に描いたような不良教師だ。保護者への説明会では、湊を殴って腕をねじ上げ「おまえの脳は豚の脳だ」と暴言を吐いたことを謝罪をしたが…。映画は母親、教師、子どもたちの視点から一連の出来事が描かれる。はたして保利の体罰や暴言は、すべて実際に起こったことなのか、やがて“真実”が明かされていく。子どもの世界の物語に軸を置いた作品だが、母親と学校側の対峙をヒリヒリするリアリティをもって描き、『でっちあげ』にも通じる部分がある作品だ。