【ネタバレあり】『リライト』松居大悟監督×上田誠ロングインタビュー!2人の出会いから創作時の攻防戦、撮影秘話までたっぷり語る
「映画に関しては松居さんが完全に先輩だから、リスペクトすることは多い」(上田)
――ここまでのお話にもお2人の好みやこだわり、目指しているものの違いがはっきり出ていておもしろかったのですが、お2人がお互いにリスペクトしているところはどんなところでしょう?
松居「上田さんは20年以上もヨーロッパ企画という劇団をまとめながら、アニメやお笑い、映画やドラマといった幅広いジャンルのものに挑戦し続けている。そのキャパの広さがスゴいし、どれを見てもまったく妥協がないところに感心します。僕はもうちょっと自分のことだけを考えてしまって」
――上田さんが書かれるもの、作られるものに関してはどうですか?
松居「お客さんを常に楽しませていて、大喜利じゃないですけど、一度も外したことがないのもスゴいと思います。しかも、そのセンスが古くならない。むしろ若い人たちのカルチャーや言葉も取り入れられているような気もするので」
上田「演劇の世界では僕の方がキャリアは長いけれど、映画に関しては松居さんが完全に先輩だからリスペクトすることは多いです。先ほどの『これを一連で撮るから』という話にしても、監督にそれ相応の説得力と力量がないとできないことだし、松居さんは俳優さんにちゃんと寄り添って、それができるような準備もきっと怠ってないと思います。今回の現場では、そういう松居さんだったから登れた山がたくさんあるような気がしていて。例えば、松居さんは屋上のシーンの撮影のことを『日陰がひとつもなくて死ぬほど暑かったんですよ』みたいなおもしろエピソードとして言うんですけど、それで『じゃあ、やりましょう』ってなるからいい画が撮れるわけですね。それってスゴいことだと思います」
松居「ありがとうございます」
――ところで、上田さんは『サマータイムマシン・ブルース』や『リバー、流れないでよ』(23)など、これまでにもタイムリープや時間をめぐる作品を数多く手掛けられていますが、時間になぜ惹かれるんですか?
上田「映画が時間操作とかなり相性がいいというのがまずありますね。舞台でも暗転を挟めばそれらしいことはできるけれど、一瞬でリープはちょっとできないから憧れもあって。それに、舞台でもやるぐらいSFやファンタジーが好きな僕にとって、時間モノはわりと簡単にできるシチュエーションなんです。映画でフィクションをやるってなったら、まず時間モノって思っちゃいますからね」
――松居監督も『くれなずめ』(21)、『ちょっと思い出しただけ』など時間や記憶にまつわる作品を撮られていますけど、そこには特別な想いがありますか?
松居「時間は拡張できるし、上田さんがいま言われたような操作もできる。でも、自分にとっての時間は、記憶とか夢、後悔といった、映画のなかで香るような体験が伴うものなんですよね。それこそ、『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』のような、“なぜ?”という理屈はさておき、エモーショナルな部分で観客を魅了する時間モノの傑作も少なくないですし。上田さんと組むと、その理屈の整合性もしっかりとれるから頼もしい。また一緒に、新しい時間モノに挑んでみたいです」
「大学時代に戻って、上田さんに送ったメールをリライトしたい(笑)」(松居)
――最後に今回の作品にちなんでお聞きします。これまでの人生をリライトできるとしたら、お2人はどの時代のどの時に戻って、どんなことをリライトしたいですか?
松居「僕は上田さんに最初にメールした時の大学時代に戻って、あれをなかったことにしたいです。あのメール、文面がめっちゃ気持ち悪かったから(笑)」
――自分の書いた文面が?
松居「そうそう。上田さんやヨーロッパ企画に対する愛情を一方的に書き過ぎて気持ち悪かったし、それで返事がこなくて。その後もう1回送ったら返事が来たので、1通目は送らなくてよかったんです」
上田「でもあれね、1通目があって、2通目が来たからよかったんです」
松居「ダメ押しがよかったんだ!」
上田「2通目に弱いんですよね(笑)」
松居「1通目で返してください(笑)」
上田「1通目の時は、返すのがちょっと面倒臭いなと思って。でも、2通目をもらったら、人として返さないわけにはいかないですからね(笑)」
――じゃあ、1通目を送らないようにリライトしちゃダメですね。
上田「直さない方がいいです」
松居「すぐ2通目を送ればいいわけですね(笑)」
上田「それで言うと、僕は松居さんに文芸助手を頼んで、京都に来てもらった時のあの日々をリライトしたいです。あれは僕が最もスランプだった時期で。書けないからこそ松居さんを呼んだんだけど、泣くわ体調は悪くなるわで、背中をさすってもらって、すべての醜態をさらけだしたという思いがあるので、それをリライトしたいです」
松居「いやいや、あの苦しみがあったから、あの傑作が生まれたんじゃないですか!」
――松居さんの助けがあって、書き上げることができたんですか?
上田「それが、あまり助けてはもらえなくて」
松居「寄り添っただけです」
上田「でも、肝心な時にいなくなって、松居さんがいなくなった途端にね…」
松居「僕はむしろ、あそこをリライトしたいかもしれない」
上田「松居さんが4日間ぐらいいなくなった時があって、その間にすべて書き上がったんです」
松居「大学生の僕が履修申告のために『東京に一瞬帰ります』と言って抜けたんです。本番の1週間前ぐらいのけっこうヤバいタイミングだったんですけど、僕が京都を発った時はストーリーも全然できてなかったのに、履修申告をして戻ってきたらホンがすべて完成していて(笑)。僕が邪魔だったのかな?って思っちゃいました」
上田「本当に、松居さんが東京に帰った途端、驚くべき速さでできたんです(笑)」
松居「じゃあ、僕はあの時の自分に『行くな!あと1週間で書き上がるから、いまは東京に戻るな!』って言ってやりますよ(笑)」
――そこで書き上げたのは何というタイトルの作品ですか?
上田「『あんなに優しかったゴーレム』です」
松居「2008年の初演の時です」
上田「2022年に再演しているんですけど、あれもいずれ、松居さんに映画にしてもらいたいですね」
松居「ぜひ、やりたいです!」
取材・文/イソガイマサト