【ネタバレあり】『リライト』松居大悟監督×上田誠ロングインタビュー!2人の出会いから創作時の攻防戦、撮影秘話までたっぷり語る

【ネタバレあり】『リライト』松居大悟監督×上田誠ロングインタビュー!2人の出会いから創作時の攻防戦、撮影秘話までたっぷり語る

「松居さんは整合性よりも、映画としてのおもしろさを取る」(上田)

初稿ではなんと3時間半のボリュームだったという
初稿ではなんと3時間半のボリュームだったという[c]2025『リライト』製作委員会

――シナリオの開発ではお2人の間で激しい攻防戦があったようですが、どういった点をめぐるやりとりやバトルが多かったのでしょう?

上田「シナハンも一緒に行って、この風景はいいね、こういうシチュエーションを使おうといったところは共有できたから、そのへんのズレはそんなになくて。バトルが起こったのはどこだったかな?」

松居「そもそも、上田さんの初稿が3時間半ぐらいのボリュームだったから…(苦笑)」

上田「3時間半ってことはないでしょ!(笑)」

松居「いや、その初稿は美しくすべてが成立しているんですよ。その美しく成立しているものから20ページ以上削っていって、映画の尺としてちょうどいいものにしていく作業の時に攻防戦と言うか、激しいやりとりがあったような気がします」

上田「僕は整合性をけっこう大事にするけれど、松居さんは整合性よりも、映画としてのおもしろさを取るんですよね。その感覚もわかるので、最終的には監督の松居さんにじわじわバトンタッチしていったんですけど、僕がまず破綻のないホン(脚本)を作り、松居さんがそれを映画として見栄えのあるものに仕上げていくというプロセスのなかで、様々なやりとりがあったんです」

映画を作るうえでのプロセスを説明してくれた上田
映画を作るうえでのプロセスを説明してくれた上田

――お互いの譲らないところもあったと思うのですが、そのあたりはどうでした?

上田「終盤の方は僕もちょっと納得できないシーンがあるんです(笑)」

松居「上田さんのホンをいっぱい削るくせに、僕は夜中にベランダで煙草を吸っている美雪が章介(篠原篤)に『そっちに行っていい?』って言う時間のロジックがなにも起きないシーンを勝手に足して(笑)。現在の美雪が10年前の自分と出会う最後のシーンも、上田さんのホンは最初と同じセリフを美雪にもう一度ちゃんと言わせていたけれど、僕はそこを曖昧にすることで余白を作りたかったんです」

上田「友恵(美雪の同級生・文学少女/橋本愛)の最後のセリフもね」

松居「ああ、そうですね」

上田「非常に微細な話なんですけど、友恵が保彦と想いをぶつけ合うシーンのセリフも、様々な検討の結果、あの形になりました」

松居「でも、それこそ美雪と友恵が対峙する最後の図書館のシーンでは、最終的にセリフを発する池田さんと橋本さんからの提案もあって。そこでの話し合いでけっこう変わっていったところもありますね」

同窓会の二次会シーンから、物語が急激に加速していく
同窓会の二次会シーンから、物語が急激に加速していく[c]2025『リライト』製作委員会

――松居監督は、撮影に入ってからは迷ったり、混乱したりするようなことはなかったですか?

松居「苦戦したのはクライマックスのスナックのシーンです。あの、クラスメイトの33人全員が主人公とわかって、阿鼻叫喚になるところはどう演じていいのかわからないから、最初はみんなやっぱりノーリアクションになって。だから『それぞれの夏を1回絶望して欲しい』『いま思っている10倍の気持ちでやってください』みたいなことを何度も何度も言っていたけれど、正直僕も33人をどう撮ったらいいのかわからないところがありましたから。撮り方もそうだけど、全員が主人公である芝居に誘導していくのが難しかったです」

上田「あのあたりは思い出したくないぐらいつらかった」

――あの一連では茂(美雪の同級生/倉悠貴)がある種の解説をしていきますが、松居さんはああいう説明ゼリフやモノローグはなるべく削りたいタイプですよね。そう聞こえないような工夫もされたんじゃないですか?

松居「そこに関しては、茂のところより、中盤の美雪の方が難しかったですね。なにが起きているのかを伝える、あのあたりの美雪のモノローグをどこまで補足すべきか?言えば言うほど丁寧になるけれど、それでいいのか?ここまでセリフやモノローグを削ってもお客さんはついてくることができるのか?という情報の取捨選択は悩みました」

「いきなり台本を渡された役者は誰だって『ちょっと待って!』ってなると思います」(松居)

【写真を見る】池田エライザが2人…?若手キャスト陣による、過去と現在の演じ分けにも注目!
【写真を見る】池田エライザが2人…?若手キャスト陣による、過去と現在の演じ分けにも注目![c]2025『リライト』製作委員会[c]2025『リライト』製作委員会

――タイムリープを繰り返す際の整合性で悩んだところは?

松居「それはないです。そこは上田さんの初稿で成立していましたから」

上田「松居さんは僕の時間モノも観てくれているし、今回は黒板に書きながらプロットを一緒に組んでいきましたからね」

松居「だから、『これ、矛盾してる!』は一切なかった。そこに対して疑いがなかったから、そうじゃないところを考えることができたんです」

上田「そこを監督がわかってなかったら、ちょっとヤバいですよ(笑)」

松居「『これ、矛盾してんな~』みたいなことを言ってね(笑)」

――でも、池田さんはけっこう混乱したみたいですね。

松居「いや、僕たちはホン打ちを1年間やってきたからわかるんですけど、いきなり台本を渡された役者は誰だって『ちょっと待って!』ってなると思います」

上田「映画の『サマータイムマシン・ブルース』の時も、僕のところに撮影中の現場現場から何度も電話がかかってきましたもん。『ここって、どうなってるんでしたっけ?』ってキャストから聞かれたけれど、答えられなかったみたいで(笑)」

松居監督が語る、撮影時の苦労は?
松居監督が語る、撮影時の苦労は?[c]2025『リライト』製作委員会

――今回、キャストから質問を受けるようなことはなかったですか?

松居「『全然わからないです』って最初にやっぱり言われたから、『ゆっくり説明する』っていう時間を設けました。一個の世界線の中で、保彦が同じことを繰り返すところはなにも考えずに読んだら理解できないと思うし、なにが起きているのかわからない方も実際いて。橋本さんは最初からすべてわかっていたけれど、理解力はそれぞれだし、わからずにやるよさもあったりしたから、そのバランスを考えながら調整していきました」

上田「構造の複雑さで大変って思われるし、それもあるけれど、向き合わなきゃいけない相手が多いのも今回は大変だったと思います」

松居「役者の数も尋常じゃなかったですからね」

上田「松居組を以前に経験している人たちもたくさん出ているけれど、そういう人たちがいなかったらたぶん無理だったと思います」

映画の最重要人物となる、友恵を演じた橋本愛
映画の最重要人物となる、友恵を演じた橋本愛[c]2025『リライト』製作委員会

――それこそ橋本さんは『ワンダフルワールドエンド』(15)以来の松居組ですね。

松居「橋本さんが演じた友恵は重ための役でしたけど、僕が思っていた以上の友恵にしてくれました。かなり深みが増したと思うから、改めてスゴい役者さんだと思いましたね」

――上田さんは完成した映画をご覧になって、自分が書いたもの以上になっているなと思ったり、感心したようなシーンはなかったですか?

上田「いや、もう、すべてのシーンに対してそう思いました。これだけ複雑で膨大な要素が入った映画を演出するのは、多くの現場を踏んできた松居監督じゃないと不可能だっただろうなって思うような作品になっていましたから。群像劇のシーンは特に圧巻だったし、僕が無理のないように書いたホンを移動しながらの撮影で映画的に映えるものにしているあたりも流石だと思いましたね」

松居「茂が教室にいる美雪に『本、返しといて』って言うところから始まる一連ですね。茂が同じようなことを次々に伝えるあのくだりは上田さんのホンでは“それぞれのカットを編集で繋いでいく”となっていたんですけど、僕が現場で『ワンカットの一連でやりたい』って言ったから、倉くんも“マジか?”って顔になって(笑)。しかも、撮影初日だったから『ちょっと待ってください』って焦っていたけれど、彼はそれぞれの場所に行って、一人一人に指示を出すあの一連をちゃんとやってくれました」

実は茂の奮闘によって生まれた、“主人公”と保彦との出会い
実は茂の奮闘によって生まれた、“主人公”と保彦との出会い[c]2025『リライト』製作委員会


――なぜ一連で撮ろうと思われたのですか?

松居「一連の方がおもしろい画になると思ったからです」

上田「ホン作りの時は思いついてないんだ?」

松居「ホン作りのときは、あまりそういうイメージは持っていませんでした。でも現場で、その方が茂の執念が出ると思ったんです」

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