【ネタバレあり】『リライト』松居大悟監督×上田誠ロングインタビュー!2人の出会いから創作時の攻防戦、撮影秘話までたっぷり語る

【ネタバレあり】『リライト』松居大悟監督×上田誠ロングインタビュー!2人の出会いから創作時の攻防戦、撮影秘話までたっぷり語る

『ちょっと思い出しただけ』(22)などの松居大悟監督と戯曲「サマータイムマシン・ブルース」(01)の作・演出などで知られる「ヨーロッパ企画」の上田誠が初タッグを組み、“SF史上最悪のパラドックス”と評される法条遥の同名小説を映画化したタイムリープ×青春ミステリ『リライト』(公開中)。

高校3年の夏。美雪(池田エライザ)は300年後の未来からやって来た転校生の保彦(阿達慶)と恋におちる。7月21日、保彦にもらった薬で10年後にタイムリープした美雪は27歳の自分から1冊の本を見せられ、「あなたが書く小説」と告げられる。それは保彦が過去に向かうきっかけになった小説だった。元の時代に戻った美雪は、未来へ帰ることになった保彦に「この夏に体験した自分と保彦の物語を小説にし、必ず時間のループを完成させる」と約束する。10年後、作家になった美雪は小説を完成させるが、運命の日になっても高校生の美雪は現れなかった――。

そんな1冊の小説をめぐる本作を“最高に緻密な時間のパズル”の脚本で構築した上田と、過去と未来を往来する複雑な世界線のなかで青春のもがきと輝き、感傷と希望を鮮やかに描いた松居監督。師弟関係でもある2人が、労作となった『リライト』の誕生秘話と創作時の激しい攻防戦を振り返る対談を、ロングインタビューとしてお届けする。

※本インタビューは映画『リライト』のネタバレ部分に触れています。未鑑賞の方はぜひ鑑賞後にお読みください。

「『リライト』は僕が好きな構造の妙と、松居くんが得意な要素も兼ね備えていた」(上田)

企画経緯からシナリオ制作、見事に演じきった役者陣までたっぷり語ってもらった
企画経緯からシナリオ制作、見事に演じきった役者陣までたっぷり語ってもらった

――上田さんが法条さんの小説「リライト」を映画化したいと思われた理由と、それを松居監督に託された想いをまずはお聞かせください。

上田「原作の小説は時間SFのなかでもかなり凶悪な構造を持っていて、最後も(衝撃的な結末を)ぶん投げて終わるような作品でしたから、僕自身はこれを映像の脚本にすることに興味があったんです」

松居「コロナ禍の深夜って、やることがなくて、けっこう暇だったじゃないですか?しかも自分の劇団でYouTubeを始めようか悩んでいる時だったので、上田さんとよく深夜の3時ぐらいまでメッセージのやりとりしていたんです。その流れのなかで『松居くんといつか一緒にやりたい原作がある』と言ってくれて。それが『リライト』だったんです」

上田「前からさも考えていたかのように言ったと思うけど、たぶん話しながらふと思いついたような気がします。そうやって劇団のことも相談し合うような関係で長い間やってきたら、一緒に作品を作りたいという想いだけはあって。じゃあ、どんな作品がいいだろう?って考えた時に、『リライト』なら僕が好きな構造の妙もあるし、松居くんが得意とするエモーショナルな要素も兼ね備えていて、両方が表現できるから、一緒にやるのに適していると思ったんです」

――存じ上げなかったのですが、お2人は師弟関係の間柄だそうですね。

松居「僕はもともと大学の演劇サークルで役者をやっていたんですけど、その時に界隈で『いま、ヨーロッパ企画がおもしろいらしい』という情報が飛び交っていて、(上田が脚本と演出を手掛けた)2005年の『サマータイムマシン・ブルース2005』を友人と観に行ったんです。そこで、それまでちょっと敷居が高いと思っていた演劇のイメージが一新して。

自分が一番おもしろいと思っている“笑い”を越えるようなものを表現していたから、普通に声に出して笑ったし、こういう世界なら自分も作ってみたいかもっていう気持ちになったんです。実際にそれがきっかけで作る側の世界に飛び込んで、作・演出も始めたころに『僕たちの公演を観に来てください』ってメールしたら、本当に観に来てくれて交流が始まったんです」

上田「それが縁で、大学生の時の松居くんには僕の芝居の作家助手と言うか、文芸助手を1回お願いしたこともあるんです」

松居「京都までうかがいましたね」

原作は“SF史上最悪のパラドックス”と評されている
原作は“SF史上最悪のパラドックス”と評されている

――そんな関係でしたら、松居さんは今回の監督のお話はかなりうれしかったんじゃないですか?やっとこの時が来た!という感じで。

松居「そうですね。僕も劇団は続けているけれど、いろいろな人との出会いなどによって、ヨーロッパ企画のようなコメディを作りたいという想いから、(自身を)磨くところが少しずつ変わっていきました。だけど、ヨーロッパ企画が映画を作っているのを見るたびに悔しかったし、羨ましかったから、この話を聞いた時は本当にうれしかったです。でも、それと同時に圧倒的なものにしなければいけないという感情も芽生えてきたので、兜の緒を締めるような感覚で挑みました」


「尾道に降り立った時に、本当に時間が止まっている感覚を味わった」(松居)

――この企画が具体的に動いたのはなにがきっかけだったんですか?

上田「僕は『こういうの、やりたいね』って言っただけ(笑)。『松居くんに監督をして欲しい』とは言ったものの、プロデューサー的なことができるわけでもないから、そこは松居さんが形にできるように動いてくれた感じでした」

松居「でも、いろいろな映画関係者に『上田さんと一緒にこの『リライト』を映画にしたいんです』って言って回ったんですけど、あまり話に乗ってもらえなくて。複雑な構造の小説だから、原作だけ読んでも、どんな映画になるのかまったくイメージができなかったんだと思います。そんななか、初めて『おもしろそうですね』って言ってくれたのが、バンダイナムコフィルムワークスの岡田直樹プロデューサーでした。ただ、そこからがまた大変で。この原作小説を映画にするにはどんな台本にしたらいいのか?といった“ホン打ち”に1年以上かける、ものすごく長い旅が始まりましたからね」

多くの登場人物たちによって“時間のパズル”が生み出されていく
多くの登場人物たちによって“時間のパズル”が生み出されていく[c]2025『リライト』製作委員会

――そこでまずは上田さんが第一稿を書かれたわけですけど、映画にするために上田さんがポイントを置いたところやこだわったところはどこだったのでしょう?

上田「僕らがもともとイメージしていたのは、原作の斬れ味そのままに、やり逃げみたいな感じで終わる、もっと小さな規模の映画だったんです。ところが、『もう少し大きな映画にしましょう』という話になり、予算の面も志も大きく変わっていった。そんな流れのなかで、松居さんがいきなり『撮影を尾道でやりたい!』って言い出したんだけど、“それは絶対ダメでしょ!”って思いました(笑)」

――どうしてですか?

上田「どちらかと言うと、『時をかける少女』の裏をかくような作品ですから、『時かけ』のイメージが強い尾道でやるのは危険だと咄嗟に思ったんでしょうね」

全編尾道ロケが行われ、現地の空気感が映画からも感じられる
全編尾道ロケが行われ、現地の空気感が映画からも感じられる[c]2025『リライト』製作委員会

――でも、原作でも尾道を舞台にした大林宣彦監督の『時をかける少女』がモチーフになっています。

上田「だから僕も思い直して、これを尾道で撮るのに相応しいものにするには相当な覚悟がいるなというスタンスに立ち戻りました。要は原作小説や『時かけ』の世界観をひっくり返しつつ、観終わった時にはちゃんとエバーグリーンな心地よい印象が残るような作品にすべきだと思ったんです。そこが、大きな転換点でした。かなりエッジの立った小説を、王道と言えるぐらいの名作に持っていくような、けっこう大きな作業でしたからね」

――原作より、ジュブナイル系のテイストがプラスされた形になりましたね。

上田「そうです。原作はどちらかと言うと、ホラーにも近いショッキングな作品で、読後感も独特のイヤ~な後味を残すものですが、映画は観たあとの感触をまた違ったテイストにしたくて。原作者の法条先生もそれを快諾してくださいました」

――松居さんはなぜ尾道で撮りたいと思われたのですか?

松居「この映画を観たら、『時をかける少女』を思い浮かべるはずです。大林宣彦監督の映画なら尚更で、そこの鑑賞体験も背負ったまま、『リライト』の世界に飛び込んでいった方がより深いところまで描けるような気がして。それに、映画ファンが大好きな大林監督の『時をかける少女』をスルーするのは勿体ない。ただ、それは漠然としたイメージで。上田さんや岡田さんと一緒にシナハン(シナリオハンティング)で尾道に降り立った時に、本当に時間が止まっている感覚を味わったし、信号も少なくて道も細い、タイムリープなんて絶対に起きそうもないとても穏やかな町だったから、その漠然としたイメージがやっぱりここでやりたいという確信に変わったんです」

鑑賞後、思わず尾道を訪れたくなるのも魅力の一つ
鑑賞後、思わず尾道を訪れたくなるのも魅力の一つ[c]2025『リライト』製作委員会

――松居監督が公式コメントで言われていた「風をモチーフにしたい」という考えも尾道に実際に行かれた際に生まれたんですか?

松居「そうです。山と海があって、細い通りを風が流れて風鈴が鳴る。音だけで涼しくなる感じが日本人らしくていいなと思ったので、風をモチーフにしたいと思ったんです」

上田「原作はかなりゲリラ的な野心を持った作品だったと思うんですよ。そこに、映画は王道の古風なアプローチで正面から挑むことになったという感じですね。手法もできるだけアナログにこだわりましたから」

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