「結局、世の中見た目?」ゆりやんレトリィバァが赤裸々に語る、SNSでの批判と『サブスタンス』から得た“活力”

インタビュー

「結局、世の中見た目?」ゆりやんレトリィバァが赤裸々に語る、SNSでの批判と『サブスタンス』から得た“活力”

「芸能界で“忘れられる”ということの描き方もリアルで、痛感させられました」

ショウビズ界にはびこるルッキズムや男尊女卑に、時にユーモアを交えながら斬り込んだ『サブスタンス』
ショウビズ界にはびこるルッキズムや男尊女卑に、時にユーモアを交えながら斬り込んだ『サブスタンス』[c]2024 UNIVERSAL STUDIOS

――本作はさまざまなジャンルにまたがった作品ですが、そのなかにはホラーも含まれています。ホラー映画好きとして、本作の魅力はどこにありましたか。

「私自身は、おばけが出てくるようなホラーと同じくらい、『サブスタンス』のように人がどんどん闇堕ちしていくタイプの怖さも大好きなんです。エリザベスという人間が欲望をむき出しにして、どんどん悪い方向へと向かっていってしまう狂気性が最高ですし、“ヒトコワ”に振り切るのかと思っていたら『こんなことになるんかい!』と唖然とするクライマックス。まったく予想ができなかったですし、なんだか悔しくなりましたね」

――その“悔しい”という感情について、具体的に教えてください。

「特に感じたのはクライマックスで、エリザベスが舞台に上がったシーンでのコミカルさとシリアスの絶妙なバランスですね。観客が叫びだすタイミングや極端な行動だったり、エリザベスのほうも『その服、入るんや』とか(笑)。これは私の勝手な想像ですが、コラリー・ファルジャ監督はカメラの後ろで笑いながら作っていたんじゃないかと。画作りからストーリーやユーモアまで、一切遠慮や妥協をせずに『これを撮りたい!』というのを追求して、観ているこっちが『やりすぎやろ!』とツッコミたくなるぐらいやり切る。その力技に思わず大笑いしてしまって、だから芸人としては悔しい反面、うらやましくも思いました」

“美”に執着した彼女を待つ、壮絶なクライマックスとは…
“美”に執着した彼女を待つ、壮絶なクライマックスとは…[c]2024 UNIVERSAL STUDIOS

――なかなか笑っていいのかと迷ってしまう展開ではありましたね。

「あ、『ホラーも笑い飛ばせるゆりやん、カッケーっしょ?』とかイキってるんじゃないですよ(笑)。『こうなるのか!』という発想がおもしろくて、監督やスタッフさんたちがイキイキと作っている現場を想像するだけで、自分もその一員になった気がしておもしろくなってくる感じです。よく“恐怖と笑いは紙一重”というじゃないですか。例えばモンスターが出てきても、当事者はめっちゃ怖いと感じるけど、外側の人間からしたら他人事だから『なんやこれ?』『なにしとんねん!』と笑えてしまう。そういう第三者の目みたいなものが、“紙一重”ということなんでしょうね。

でも同時に、エリザベスがスーになって、相対する存在として別々になった挙句、終盤のシーンで『私がエリザベスでスーなのよ』と言った時には、一つになれたんだねと、ちょっとうれしく思えたんです。それに最後の最後でキラキラしていた頃を思い出して、なんだか救われた感じになっていましたが、結局いまのエリザベスとしては成功していないという点もしんみりした気持ちになりました。『祇園精舎の鐘の声…』という感じですかね。あんなに華やかに生きてきても、こうして人から忘れ去られていくんだなあと」

若さと美貌を備えた“スー”はスターダムを駆け上がっていくのだが
若さと美貌を備えた“スー”はスターダムを駆け上がっていくのだが[c]2024 UNIVERSAL STUDIOS

――「諸行無常の響きあり…」ということですね。そのような栄枯盛衰の過程は冒頭シーンからも痛切に描かれていましたね。ゆりやんさんも芸能界で、さまざまな栄枯盛衰を見てきたと思います。

「“忘れられる”ということの描き方は、リアルなのかもしれないと思いましたね。もしエリザベスがベテラン女優として、50代らしい活躍の仕方を選び年齢に合わせたアップデートをしていけたら、きっとこうはならなかった。20代の頃と同じことを続けていたから売れなくなっていったんだろうなと。それに気付けない愚かさがあったのだとも思いますが、誰も彼女に教えてくれる人がいなかったから、若さや美しさに執着して、その世界観に閉じこもっているのだと考えると、正直寂しいなと思います。

現在、ロサンゼルスを拠点にアメリカ進出に挑戦しているゆりやんレトリィバァ
現在、ロサンゼルスを拠点にアメリカ進出に挑戦しているゆりやんレトリィバァ

私もキャリアに合わせた仕事のやり方ということについては最近よく考えます。芸人を始めてから10年以上、『劇場でがんばりたい』という志で長いあいだネタに命をかけてきました。いまではお仕事の幅が広がって、こうして渡米して叶えたい夢を追いかけることもできるようになったのですが、私自身の根っこは劇場だと思っています。それで今度、大阪でよしもと漫才劇場の『グランドバトルWEST』に出場させてもらえることになって。こういうバトルをやらせてもらえるのは6年ぶりになるので、よっしゃ頑張るぞと思って発表したところ、SNSで『老害』みたいな感じで言われていて(笑)。

しばらく劇場から離れていたので、いまの若いお笑いファンの方たちからすると劇場のイメージがなくて、『え?ゆりやん?』と拒否反応があるのは理解できますが、劇場が大好きで、命かけてやってきたつもりだったのに、『いまさら若手にすり寄ってくんな』みたいに書かれているのを見てしまうと、流石に悲しい気持ちになります。その時に、求められなくなったエリザベスの気持ちを痛感しました。でも、私はコメディアンなので切り替えも早くて、もし私が若手のファンの人たちに認められたいと思って“サブスタンス”の注射をもらって、よりよいバージョンのゆりやん、“お笑い人間”みたいなのが舞台に出てきたらどうなるかなって、ちょっと想像してしまいました(笑)」

“サブスタンス”と呼ばれる再生医療は、現実世界のアンチエイジングのメタファーとして描かれている
“サブスタンス”と呼ばれる再生医療は、現実世界のアンチエイジングのメタファーとして描かれている[c]2024 UNIVERSAL STUDIOS


「MOVIE WALKER PRESS」のホラー特化ブランド「PRESS HORROR」もチェック!

関連作品