「独自の時間で進行し、ひとつの世界を生みだすのは、映画の本質的魅力」ジョン・クローリー監督が明かす『We Live in Time この時を生きて』の制作秘話
「まさか、スパイダーマン役を演じるなんて想像もできませんでした(笑)」
そんなクローリー監督の演出に見事に応えた主演2人だが、トビアス役のアンドリュー・ガーフィールドが最初に注目されたのは、クローリー監督作の『BOY A』(07)だった。少年時代に罪を犯し、長い刑期を終えて出所した青年という複雑な主人公で、クローリー監督はガーフィールドの繊細な表現力を開花させた。それ以来のタッグは感慨深かったに違いない。「まさかあのあと、スパイダーマン役を演じるなんて想像もできませんでした(笑)。当時のアンドリューは『BOY A』で演じたジャックと重なる雰囲気があり、その潜在能力から未来の可能性が見いだせました。映画を編集している段階から、プロデューサーや友人が興味を持ってくれ、『この俳優は、いったい誰だ?』なんて聞いてきたので、才能は明らかだったのです。そんなわけでアンドリューの現在の活躍に、まったく驚きはありません。彼のすばらしさは、出演する作品のクオリティを重視しているところ。そして私が出会った24歳のころと変わらない情熱。多くの監督たちとの経験で、洗練されたパフォーマーに成長したと思います」。
そのガーフィールドの相手役が、マーベルの新作『サンダーボルツ*』(25)でも主演を務めるなど、いまやハリウッドのトップ若手スターとなったフローレンス・ピュー。なぜここまで躍進が止まらないのか。『We Live in Time この時を生きて』で彼女を演出したクローリー監督に、その魅力を聞くと、「『サンダーボルツ*』はまだ観ていないのですが、予告編の高層ビルから落下するシーンに彼女の特徴が表れていると思います。恐れ知らずの精神で、真実を表現する。そういう本能を持っている人です。訓練を積んで演技を習得したアンドリューに対し、フローレンスは直感的になにかを見抜くタイプ。極端な感情にもユーモアを加えるのは、ある種の才能です。『We Live in Time この時を生きて』では、ウィットや遊び心も加えて切実な運命を示唆したりする姿に驚かされました。私が本作で一番好きなショットは、フローレンスがベッドで眠る娘を見つめるシーン。彼女がドアの側に立っているだけの何気ない姿から、心の奥に眠る複雑な感情が伝わってきました。フローレンスが今後もすばらしいキャリアを積むことを、私は自信を持って断言できますよ」。
キャリアの原点を作ったアンドリュー・ガーフィールドとの再会。そしてキャリア絶好調にあるフローレンス・ピューの起用。その両方の喜びを受け止めたクローリー監督が、『We Live in Time この時を生きて』で引き出した彼らの新たな一面を、ぜひ観届けてほしい。
取材・文/斉藤博昭