「独自の時間で進行し、ひとつの世界を生みだすのは、映画の本質的魅力」ジョン・クローリー監督が明かす『We Live in Time この時を生きて』の制作秘話
シェフのアルムートと、離婚したばかりのトビアスは運命的な出会いを果たし、娘も生まれて幸せな生活を送っていた。しかし、アルムートの人生が残り少ないと発覚する…。そんなせつない愛と感動に満ちた『We Live in Time この時を生きて』(6月6日公開)は、独創的なスタイルによって心に深く響く珠玉作だ。そのスタイルとは、主人公2人の関係を時間軸を交錯させて描くところ。恋に落ちた瞬間や、娘の誕生、病気との闘いなど、それぞれの時間が絶妙にシャッフルされ、「人生とは?」、「本当の幸せとは?」など様々なテーマが鮮やかに浮かび上がってくるのだ。アルムート役にフローレンス・ピュー、トビアス役にアンドリュー・ガーフィールドという最高のキャストを迎え、本作を完成させたのが、『ブルックリン』(15)などのジョン・クローリー監督。時間軸を交わらせた効果や、執念で完成させたシーンの舞台裏、そして主演2人の魅力などを、クローリー監督に聞いた。
「編集とは、単に2つのシーンがつながるだけでなく、そこからもう一段上のなにかを生じさせる作業」
『We Live in Time この時を生きて』は、ざっくりと3つの時間が交錯して展開する。映画としてはチャレンジングな構成でもあるが、クローリー監督にとっては、トライしてみたいスタイルだったようだ。その理由は、敬愛する巨匠の影響もあると語る。「18歳くらいのころ、イギリスの偉大な巨匠、ニコラス・ローグ監督の『美しき冒険旅行』(71)や『赤い影』(73)、『ジェラシー』(79)を観たことが、強烈な体験になりました。独自の時間で進行し、ひとつの世界を生みだすのは、ほかのアートとは違う、映画の本質的魅力だと感じたのです。ローグ監督の『編集室では、すべての時間が材料になる』という言葉も心に残っており、本作で時間を交錯させるアイデアに惹かれました。ただし実際にやってみると、編集の選択肢が限りなく増えて、どのような交錯、構成が正しいのか判断するのが難しかったのも事実です。直線的な時系列ではなく、3つの時間軸を感情が伝わるように編集で組み合わせるわけですから」。
もともと脚本の時点から、時間軸が交わる設定だったとはいえ、最終的にはクローリー監督が編集によって順番を変えていったという。その巧みなスイッチは、映画の冒頭から始まり、観ているこちらを不思議な感覚に引き込んでいく。「出会ったばかりの主人公2人がレストランで会話しています。その次のシーンでは、2人が幼い娘と一緒の時間に飛びますが、やはり舞台はレストランです。ビジュアル的にはおもしろいつなぎになったと思います。このように編集とは、単に2つのシーンがつながるだけでなく、そこからもう一段上のなにかを生じさせる作業なのです。なにをどうつなぐのか、映画的な解決策を見つけることで、その作品がオリジナルの生命を持ち始める。脚本からも離れ、映画がどの方向を示すのかが見えてくるわけです」。
こうした編集のマジックは撮影後に起こることだが、一方で俳優側は時系列の流れで感情を表現しているはず。クローリー監督は映画の現場ならではの苦心を打ち明ける。「理想を言えば映画は“順撮り”するべきですが、これまでの作品でも時系列の順番で撮ったことはありません。映画の現場は、そういうものです。例えばスケジュールの都合上、映画前半のシーンのロケ地へは撮影期間の後半には行けなかったりします。俳優たちは1日の撮影で、2つの別の時間帯のシーンを演じることもありました。さすがに1日で3つの時間帯…というのは避けましたが。それでも2週間のリハーサルを設けたので、彼らはストーリーの全体像を把握して撮影に臨んでくれました」。