大ヒット中『#真相をお話しします』でメイン層の観客をつかんだ豊島圭介監督。その知られざるキャリアと覚悟【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】

インタビュー

大ヒット中『#真相をお話しします』でメイン層の観客をつかんだ豊島圭介監督。その知られざるキャリアと覚悟【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】

「今回ようやく時代とクロスオーバーして、そこで果実を手にしつつあるんだなって見えていて」(宇野)

――菊池さんとは、今回が――。

豊島「3作目です。でも、今回の菊池地君は衣装合わせの時から、これまでとはちょっと違いましたね。彼が演じる桐山はかつてエリートサラリーマンで、その時は陽キャ的に描かれていますけど、彼は『この時こそ実は桐山は誰にも心を開いていなくて、警備員になったいまのほうが、人に心を開くようになったのかもしれませんね』 みたいな人物像を自分から語ってくれたんですね。以前は忙しいスケジュールの中で、自分も含めどうしても流れ作業的なところがあったから、今回、だいぶ役者脳みたいなものが成長したんだなって感心しました」

一攫千金を狙う警備員役をコミカルに演じた菊池は、豊島監督と3作目のタッグ
一攫千金を狙う警備員役をコミカルに演じた菊池は、豊島監督と3作目のタッグ[c]2025 映画「#真相をお話しします」製作委員会

―― 50歳を過ぎて、日本で一番大きな配給会社で、こういうヒットのポテンシャルの高い作品を、企画を受けただけじゃなくて、実際にこうしてかたちにしてみせた、いまの率直な――。

豊島「気持ち?」

――そう。

豊島「僕は昔からずっとメジャー映画やりたくて、なんでこんなに自分はできるのに、なんで声がかからないんだろう?って思ってたんですよ(笑)。それを最初に評価ししてくれたのは映画会社じゃなくてテレビ局、具体的にはテレ朝だったりして。 そこでいろんな連ドラをやらせてくれて、長さでいうと映画と同じ、単発の2時間ものとかもやって。 それで、やっと映画業界でメジャーな作品をやるチャンスが来たのがこれだったんですよね。 だから、すごいうれしくて。ただ、出来上がりに関してはやっぱりよく分からなくて、これがおもしろいかどうかっていうのは。もちろんおもしろいと思って作ってるんですけど、ミステリーとしては、きっと綻びもあるはずなんですよ。 トリックとか」

それぞれの視聴者が語る”真相”はミステリー仕立てになっている
それぞれの視聴者が語る”真相”はミステリー仕立てになっている[c]2025 映画「#真相をお話しします」製作委員会

――一つ一つのエピソードは短編だから、ある程度強引にいけるという部分もありますよね。

豊島「そうそう、勢いで行ったりとか、ここは説明せずに飛ばしても伝わるだろうみたいことも、もちろんあって。台本読んだ時に、ある種ティーン向け映画というか、ライトノベル的なものだと最初に思ったんで。ティーンが楽しめるような、スピード感のあるエンタメを作ろうと思ってやったんですけど。だから、宇野さんがXで褒めてくれた時にびっくりしたんですよ。 あ、宇野さんにも届くんだ!と思って」

――それでいうなら、僕は一般的な映画好きとか批評家とかが軽く見てるようなエンターテインメント作品で、本当におもしろい作品に出会った時が、一番興奮するんですね。 昔からそういう体質で。 例えば、去年の作品だと『ブルーピリオド』とかに「うおーっ!」と盛り上がってたら、あんまり誰もついてこなかった(苦笑)。だから、原作があるとか、作家の映画じゃないとか、監督が脚本を書いてないとか、そういうのって映画にとって本当にどうでもいいことだと思っていて。

豊島「すばらしい(笑)」

―― あと、やっぱり特にコロナ禍以降、特に顕著なのが、映画館を支えているのは実は若者だってことで。コロナ禍の初期、大人がみんな映画館に行くのを躊躇してた時に、『今日から俺は!!劇場版』と『コンフィデンスマンJP プリンセス編』が当たって映画館を支えた。その後、『花束みたいな恋をした』みたいなインディペンデント系の作品も大ヒットした。もちろんアニメーション映画には、また別の文脈で若い世代の観客がたくさんいるんだけど、実写映画をちゃんとお金を払って観てるのは、実は若い世代が中心になった。

豊島「うんうん」

――それは日本だけじゃなく海外もそうで。しかも、『変な家』とか『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』とか『366日』とかもそうだけど、すごく健全なのは、公開2週目以降に1週目よりも動員が増えたりする。そりゃあ、作品への評価は個別にいろいろあるけれど、単純にいまおもしろいのはどこかっていったら、自分は完全にそっちのほうなんですよ。

豊島「わかります」

――だから、僕からすると豊島君はずっとそういうのに近いところで映画に関わってきて、今回ようやく時代とクロスオーバーして、そこで果実を手にしつつあるんだなって見えていて。

豊島「なるほど、そうか。そうだといいですね。これまでは時代に合ってなかったのかもしれない(笑)」

「こういうプログラムピクチャーみたいな作品をじゃんじゃん撮りたい。体力が持つ限り(笑)」(豊島)

――自己分析すると、さっきの「なんで声がかからないんだろう?」という、その理由はなんだっただと思います?

豊島「単純に、これまで長編映画を撮るチャンスが何回かあって。2010年公開の『ソフトボーイ』と『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』。2014年公開の『花宵道中』。2016年公開の『ヒーローマニア-生活-』と『森山中教習所』。その5本の劇場映画が1本も当たらなかったんですよ」

「どうしても興行収入が高い映画を撮るっていうキャリアが欲しかった」と吐露する豊島監督
「どうしても興行収入が高い映画を撮るっていうキャリアが欲しかった」と吐露する豊島監督撮影/湯浅 亨

――なるほど。

豊島「やっぱり数字が出てれば、そこからヒットメーカーの仲間入りができたかもしれなかったけど、単純にというか、確実にそのせいなんで。だから、どうしても興行収入が高い映画を撮るっていうキャリアが欲しくて。生々しい話ですけど」

――でも、基本、受け仕事でそのチャンスを伺うのって、なかなか難しいですよね。言ってみれば、今回の作品も受け仕事なわけで。

豊島「そうですね」

――その過程で、自分で企画を立てて、みたいなことは考えたりしたかったんですか?

豊島「『ヒーローマニア』は僕の企画だったんです。でも、なかなか監督の企画がそのまま通るって珍しいことだから。 いろいろ仕込んでいても、なかなか自分の企画、特にオリジナルが通ることはないから。逆に、そういう事情を知りすぎていたのかもしれないですね」

――逆に、オファーは来たけど受けなかった仕事ってありました?

豊島「1本ぐらいですかね。なんかどうしても納得いかなくて。詳しくは言えないですけど、本当にめちゃくちゃな企画で、さすがにこれはって(苦笑)」

――1本ってすごいですよね。30年近くやっていて。

豊島「スケジュールが合わなくて断った作品はありますけど、それ以外の理由で断ったのはその1本だけですね」

――それは、どんな作品でも、そこにおもしろさを自分から見つけていくっていう?

豊島「それもありますし、ある時期まであまり必要とされてこなかったこともあって、必要とされる喜びみたいなものはデカいんで。あともちろん、食わなきゃいけないし」


――そうですよね。すごいな。53歳まで仕事を選ばずに…。

豊島「やばいでしょう?(笑)」

――僕ですら、45歳くらいから選び始めた(笑)。それでも、45くらいまでは家族を食わせるためにほぼすべての仕事を受けてやってきたけど。

豊島「じゃあ、仕事を選ぶようになって10年弱?」

――そうですね。いまは仕事を選んでるっていうか、仕事を作ってる感覚のほうが強いですけど。

豊島「『ハリウッド映画の終焉』はいい本でしたね。映画が置かれている、2020年代の現在地みたいなのものがあれを読むとわかる」

――そう言ってもらえるとありがたいです。いま読むとわりと普通のことを書いてるんですけど、DEIの話とかキャンセルカルチャーの話とかも含め、2年前に出すのはわりと勇気のいる本でした。

豊島「かなり予知的なというかね。現状、本当にこうやってハリウッド映画は終わっていくんだろうなって思ったし、日本も似たような状況だし。まあ、あとちょっと文章がエモいっていうね(笑)」

――あれでも、なるべくエモさは排除したんですけど(笑)。

豊島「そうですか、どんどんエモい方向に気持ちが行くっていう」

――同じ世代ということもあるけど、ポール・トーマス・アンダーソンとかの話になると、つい(笑)。豊島君は、誰か特別な監督っているんですか? 昔、荒木(伸二)から「豊島は澤井信一郎監督をめちゃくちゃ尊敬してる」って話を聞いたことがあるんですけど。一方で、当時は大学で蓮實(重彦)さんの授業とかを受けられたわけですよね? 20代前半では、なかなか珍しいタイプの映画好きというか(苦笑)。

豊島「そうですよね(笑)」

薬師丸ひろ子主演『Wの悲劇』(84)などの澤井信一郎監督は同郷の先輩
薬師丸ひろ子主演『Wの悲劇』(84)などの澤井信一郎監督は同郷の先輩撮影/湯浅 亨

――そういう話を聞くと、もともと職人監督気質があるというか、作家的な資質から娯楽映画の方向に自分をアジャストしてきたわけじゃないって感じもしますけど。

豊島「一つには、高校の大先輩なんですよ、澤井信一郎さんって」

――ああ、なるほど!

豊島「こんな田舎の高校(静岡県立浜松北高等学校)から、あの東映に!(澤井信一郎は1961年に東映入社)みたいな親近感があったのと、 ゴダールよりもトリュフォーみたいな感じで、相米慎二よりも澤井信一郎みたいな(笑)、そういう憧れの仕方があって」

――なるほど、ちょっとひねくれ?

豊島「でも、物語を”ちゃんと語れる”というか。ちゃんと語れた上で、そこに作家性があるところが好きで。澤井信一郎が、相米の映画を見て『俺にも長廻しできるんだ』って言いながら、『Wの悲劇』撮ったり、鈴木清順に対抗してキテレツな『めぞん一刻』(『Apartment Fantasy めぞん一刻』)を撮ったりする姿に、共感のようなものも感じてきたのかもしれませんね」

――えっと、脚本を書きたいみたいな要求は?

豊島「僕はあんまりないですね。 僕よりもできる脚本家とやりたいっていう。直したりとか、書かなきゃいけない時は書いたりしますけど、僕が書けるものを撮ってもしょうがないなって思っていて。 だから、今回の杉原(憲明)さんのように優秀な脚本家とやりたいっていう思いが強いですね」

――でも、この歳でこういう作品との出会いがあると、映画監督ってわりといい職業なのかもしれないって思えてきます。 今回、明らかにターニングポイントにはなり得る作品だと思うので。スポーツ選手だったら50歳のターニングポイントなんてないわけで。 スポーツ選手どころか、ほぼ他の仕事すべてが…漫画家だろうが、役者だろうが。

豊島「でも、役者の方には時々いますよね」

――確かにそうですね。ヒットシリーズとかに出て、これまであまり知られてなかったのに急にいろんな作品に呼ばれたりするみたいな。

豊島「それになりたいです。そして、こういうプログラムピクチャーみたいな作品をじゃんじゃん撮りたい。体力が持つ限り(笑)」

撮影中も話は止まらず。約30年振りの邂逅にして充実のインタビューとなった
撮影中も話は止まらず。約30年振りの邂逅にして充実のインタビューとなった撮影/湯浅 亨

取材・文/宇野維正

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