『エターナル・サンシャイン』から始まっていた『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』への道。ケイト・ウィンスレット渾身の一作の制作秘話とは?

『エターナル・サンシャイン』から始まっていた『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』への道。ケイト・ウィンスレット渾身の一作の制作秘話とは?

「フォトジャーナリストとして同じ戦地に赴いても、彼らは違うものを見ていたのです」

恋多き女性として知られるリー・ミラーだが、本作に登場する男性はおもに2人。回想の冒頭で瞬く間に恋に落ちるローランド(アレクサンダー・スカルスガルド)。そして取材中に出会い、チームを組んで助け合いながら戦火を共に潜り抜けた米ライフ誌の記者デイヴィッド・E・シャーマン(アンディ・サムバーグ)だ。両者との関係は共にリー・ミラーにとって非常に重要なことは一目瞭然だ。「デイヴィットはミラーに恋愛感情があったと思いますが、そこは抑えて描くことにしました。彼女が戦場でなにを達成しようとしていたか、というほうが本作ではより大切なことなので。そこから脱線したくなかったんです。だからデイヴィッドとの関係は抑え、恋愛的な面としてはローランドを強調して描くことにしました」と狙いを明かす。

凄惨な現場を共に取材し続けたデイヴィッド・E・シャーマンとリー・ミラー
凄惨な現場を共に取材し続けたデイヴィッド・E・シャーマンとリー・ミラー[c] BROUHAHA LEE LIMITED 2023

「2人とも大切で重要な存在ですが、デイヴィッドは戦地における友であり、仲間であり、同じカメラマンである。対してローランドは、彼女のありのままを受け入れた人物という意味で、非常に重要な存在でした。特派員として戦地に行き、そこから戻って来た時、リー・ミラーは心理的にかなり大きなダメージを受けていましたが、ローランドはそんな彼女をも受容し愛情を抱き続けた人。戦後2人はファーリー・ファーム(劇中でミラーがインタビューを受けている自宅の場所)へ移り、アントニーが生まれました」。さらにデイヴィッドについても、「一緒に取材旅行していた彼はとても楽しく、リーを常に笑わせてくれた人。2人ともニューヨーカーで、ヨーロッパでは異国人という共通点もあった。彼らは欧米人にはないような、直栽な物言いをする点でも似ていました」と付け加える。

どんな彼女をも愛し続けたローランド
どんな彼女をも愛し続けたローランド[c] BROUHAHA LEE LIMITED 2023

劇中我々観客は、ミラーがカメラを向ける先、被写体への迫り方や切り取り方と、デイヴィッドのそれが大きく違うことを目撃する。クラスも「フォトジャーナリストとして同じ戦地に赴いても、2人の写真を見ると戦争をどういう視線で見つめていたかがわかります。彼らは違うものを見ていたのです」と驚きを示す。「例えばダッハウ(強制収容所の一つ)でデイヴィッドはワイドショットで撮っていたり、あるいはパンを一杯に積んだカートを撮ったりしていました。でもリーは、映画で描いたとおりの視点で撮っていました。対象の取り上げ方や、ものの見方が違うことがリサーチでよくわかったことが、本作を作るうえで非常に役立ちました」。そんなクラスの言葉を聞けば、より注意深く彼らが写真を撮るシーンを注視したくなるだろう。

リー・ミラーは彼女だからこその目線で戦場を見つめた
リー・ミラーは彼女だからこその目線で戦場を見つめた[c] BROUHAHA LEE LIMITED 2023

「ソランジュ・ダヤンとリー・ミラーが再会するシーンは強く印象に残っています」

繊細かつエモーショナル、そして力強い異色の伝記映画を撮り得たクラスに、初監督作として思い入れの強いワンシーンを選んでもらった。「すべてのシーンが自分の子どもみたいなもので、お気に入りの子を選べない(笑)!それでもあえて挙げるなら、撮影開始1週間で撮ったシーンはやっぱり心に残っていますね。本当にいろんなことがあったので。最初の2日間で戦争が起こっている町の様子…リー・ミラーが爆撃の中を走っていくシーンや、女の子が髪を剃られるシーンなど、大変なシーンをたくさん撮らなければならなかったんですよ」と撮影時を振り返る。


【写真を見る】ケイト・ウィンスレット、マリオン・コティヤール。美しき2大女優の共演に惹きつけられる
【写真を見る】ケイト・ウィンスレット、マリオン・コティヤール。美しき2大女優の共演に惹きつけられる[c] BROUHAHA LEE LIMITED 2023

「そのなかでも、マリオン・コティヤールが演じる詩人のソランジュ・ダヤンとリー・ミラーが再会するシーンは強く印象に残っていますね。あのシーン・デザインも、我ながら頑張っていろいろと作り上げたものなんです。カーテンがどう吊るされているかにはじまり、ドイツ軍が占領したあと、そこから慌てて出ていった床の様子、ゴミなどを全部散らかしっぱなしにしたまま、とか。床に散らばった割れたガラスの破片をソランジュが掃いて集めている、その動き、その音は、戦争で破壊された人やモノのメタファーになっているんです」。

取材・文/折田千鶴子

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