土井裕泰監督が『片思い世界』の“あの秘密”を語る。「最初にタイトルから受け取ったイメージが、観ていくうちに変わっていく作品」

インタビュー

土井裕泰監督が『片思い世界』の“あの秘密”を語る。「最初にタイトルから受け取ったイメージが、観ていくうちに変わっていく作品」

「最初にタイトルから受け取ったイメージが、観ていくうちに変わっていく作品」

本作は事前情報がほとんど解禁されていなかった。どんな内容かわからないまま劇場に行き、その展開に驚いた人も多いことだろう。監督はこの作品をどのように仕上げようと考えていたのだろうか。

「最初にタイトルから受け取ったイメージが、観ていくうちに変わっていく作品です。美咲、優花、さくらの3人は普通の楽しい日常を送っているけど、観ている人は徐々に小さな違和感を覚えていく。そして想像とはまったく違う世界に連れて行かれる。だからこそ、観た人の世界が広がっていくような映画を目指すべきなのだろうと思いました。実は3人が現実とは違うレイヤー世界で存在していることは、序盤の20分ほどで明かされます。そこから物語は大きく動きだすので、ネタバレというべきその部分自体を主題としないようには意識していました」。

東京の片隅の古い一軒家で一緒に暮らしている美咲、優花、さくら
東京の片隅の古い一軒家で一緒に暮らしている美咲、優花、さくら[c]2024『片思い世界』製作委員会

撮影時に一番緊張感が走ったシーンは、優花の母・彩芽(西田尚美)が、3人にまつわるある事件の犯人・増崎(伊島空)に会いに行く場面だったという。映画では事件については多くは語られていないが、週刊誌の編集部のデスクには少年犯罪や改正少年法の本が置かれるなど、細やかな描写が散りばめられていた。

「少年の犯罪についてはずっと議論されていることですし、それも一つの要素ではあると思っていました。しかし今回はそれ自体をテーマにしようとは考えていませんでした。元少年Aという存在を私たちは映画をもって断罪しようという意図はありません。ただ、やはりどれだけ言葉を尽くしても、気持ちをぶつけても伝わらない相手がいるというのは、一つの現実としてある。そのことが彩芽と増崎が対峙するシーンで伝わればいいなと思いました。今回の主人公たち3人は、どれだけ伝えたい思いがあっても伝えることができない。それとある意味では対に映るシーンでもあります。基本的に、僕たちは他者のことは理解できない。でも、わかり合おうとするためには、伝え合うことでしかできないと思います。そこに関係が生まれ、ドラマが生まれ、物語になるんです」。

美咲、優花、さくらが幼いころにある事件に巻き込まれた…
美咲、優花、さくらが幼いころにある事件に巻き込まれた…[c]2024『片思い世界』製作委員会


「俳優さんたちが坂元さんの言葉を、ちゃんと自分のものにして話すことができるような場を作る」

様々な脚本家の方々と仕事をしている土井監督。坂元脚本を映像にする際に、格別意識していることはあるのだろうか。

「俳優さんたちが坂元さんの言葉を、ちゃんと自分のものにして話すことができるような場を作ること。坂元さんの言葉が俳優の身体を通して発せされた時に生まれてくるなにかを、ちゃんと見つめてすくい取ることが僕の仕事だと思っています。例えばカメラアングルや映像で、おもしろく見せようとしたり、悲しく見せようとすることは基本的にはしないということは、坂元さんの作品をやる時に心掛けていることです」。

土井裕泰監督が坂元脚本を映像化する際に意識していることを明かす
土井裕泰監督が坂元脚本を映像化する際に意識していることを明かす

これは「カルテット」の撮影中、坂元さんとのやり取りをしながら思ったことだそうだ。「カルテット」はラブストーリーなのか、ミステリーなのかサスペンスなのかと聞かれたらうまく答えられない。そのどれでもあるからだ。そもそも人間というものを深く掘り下げると、そこにはいろいろな要素があって当たり前。型にはまりすぎず、そのわかりにくさをそのまま提供することは、視聴者の知性を信じるということにほかならない。テレビドラマだと特にわかりやすさを求められがちだが、わかりやすく作らなくてはいけないというのは強迫観念。「ちゃんと表現すれば伝わるものは絶対にある」という土井監督の信念がこれまで坂元作品のクオリティを保ってきたことは言うまでもない。本作もそういう作品といえるだろう。

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