『パラノーマル・アクティビティ』に『クローバーフィールド』『プレゼンス 存在』『HERE 時を越えて』などなど…様々な“視点”を用いた映画たち
まるでゲームをプレイしているような感覚が味わえる『ハードコア』
主人公の一人称視点で展開されるハイテンションなSFアクション『ハードコア』(16)。見知らぬ研究所で目覚めた記憶を失くした男ヘンリーは、妻を名乗る女性科学者エステル(ヘイリー・ベネット)から自身が全身マシン化されたサイボーグだと知らされる。彼女の手引きで施設を脱出したヘンリーは、“協力者”ジミー(シャルト・コプリー)と共に邪悪な超能力者に戦いを挑む。
監督は痛快アクション『Mr.ノーバディ』(20)のイリヤ・ナイシュラーで、これが長編デビュー作。ロシアのモスクワ市街地から森に囲まれた研究所までヘンリーが駆け巡り、激しい死闘を繰り広げる様が約95分間ワンカットのリアルタイムで描かれる。撮影に使われたのは、スタビライザー機能が付いたヘルメットに固定したアクションカメラGoPro。立ちはだかる敵やパンチしたり銃を撃ったりする自分の腕だけが映されるFPSゲーム風の画作り、バトルをクリアするごとに情報を得る演出など、ゲーム性の高さも特徴となっている。
少年2人の友情が切り替わる主観映像で描かれる『ニッケル・ボーイズ』
人種差別が色濃く残る南部の更生院を舞台に、黒人少年の苦い体験を描いた『ニッケル・ボーイズ』(24)。原作は1960年代に実在した更生施設「ニッケル・アカデミー」の恐るべき内情を暴いたピューリッツァー賞受賞の小説。無実の罪で有罪を言い渡された17歳のエルウッド(イーサン・ヘリス)は、恐怖と暴力が支配する更生施設で出会ったターナー(ブランドン・ウィルソン)と友情を育んでいくが…。
アクションやサスペンスもない本作は、緻密に計算された主人公の目線を通して物語が進行される。相手の反応やカメラの動き、セリフ、そしてイメージ映像までを組み込みながら感情の機微をリアルに表現。街角から学校、移動中のバスやパトカーなどの車中、更生施設でも大部屋から狭い室内までカメラは自由に動き回っているため、自然とエルウッドに同化できてしまうのもポイントだ。さらに、ターナーの登場以降は2人の主観映像が切り替わりながら進んでいくのだが、その仕掛けが導く衝撃のラストも魅力的。本年度アカデミー賞での作品賞、脚色賞ノミネートも納得の力作である。